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うだうだと悩んでいても、仕事は終わらない。私は迷いを振りきるかのように洗濯に没頭する。
「はあ、疲れた」
「それなら、手伝おうか?」
「わっ、びっくりした! ジェラルドさま、こんな裏方にいきなり顔を出すのはやめてください」
いくら誰でも出入りができる場所だとはいえ、本来騎士さまが来るようなところではない。思わず指摘すれば、珍しくジェラルドさまの口元から笑みが消えていた。
「……俺のこと、そんなに嫌い?」
「何を急に?」
「それ、俺の部屋のシーツだよね?」
指差されたのは、私の足元。汚れが酷かったり、手で洗うことができないような大物を足で踏み洗いしているところだった。
「ああ、これのことですね。シーツに血がついていたので、しばらくつけ置き洗いをしていたんです。その後にこうやって足で踏みながら洗うと、綺麗になるんですよ」
「足蹴にしているわけではない?」
「何ですか、その発想」
まったく、呆れてしまう。足で洗われるのが嫌なら、備品と言えど綺麗に扱ってほしいものだ。
「嫌いだったら、そもそも布団を干したりもしませんし、シーツの交換もお部屋の掃除も最低限にしてやりますよ。仕事はできるだけ簡単にしたいですからね。と言いますか、踏みつけにされるくらい嫌われているかもしれないと思うなら、変に絡むのをやめてください」
「……そうか、うん、そうか、ありがとう」
「なにをにやにやしているんですか」
「いや、いい眺めだなあと思って」
視線の先にあるのは、洗濯のために膝までめくり上げた私の両足だ。
「変態!」
恥ずかしがるのも癪なので、徹底的に放置することに決める。このひとはこういうひとなのだ。どうせ、すぐに私のことなんて頭の中から消えてしまう。その予想通り、シーツと残りの洗濯物を洗い終わった時には、彼は木陰の下で気持ちよさそうに寝息を立てていた。鮮やかな赤毛が、ふわりと風に揺れる。
「本当に嫌なひと。眠っているときですら綺麗だなんて、一体どうなっているのかしら」
彼と夜を過ごした女性は、こんな寝顔を好きなだけ眺めることができるのだろうか。
シーツを干した場所のすぐそばでたんぽぽが咲いていた。レンガの隙間のようなところでも咲き乱れる、見た目以上にたくましい花。その花の強さが羨ましくて、そして私のことなんて忘れてしまっているジェラルドさまが少しだけ憎らしくて、眠っているジェラルドさまの周りを黄色の花で飾ってみた。そして、小さな声でささやいてみる。
「ジェラルドさま、約束の5年が経ちますよ。私、今でもやっぱりあなたのことが好きみたいです。私のこと、お嫁さんにしてくれますか?」
「もちろんだよ」
「!」
私は手首を捕まれ、またもや視界が反転した。
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