エピローグ 2

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広報:パートナーさんとは衝撃の出会いだったということですが。 桂山:えっ、その話をしないといけないですか? 山中が(ほの)めかしていた通りですよ。 広報:我々も山中さんの仄めかしにガチで仰天したのですが、是非詳細を伺いたく……。 桂山:彼がゲイ専門の風俗で仕事をしていました、私は彼の客でした。月一回指名していた他に顔を合わせる機会があるなどして、親しくなりました。 広報:そんな淡々と語らないでください、何か余計にエロいですから。 桂山:私にどうしろと……。 広報:あっ虐めてしまった、わかりました、それで十分です。後はオフレコで伺います。 桂山:いやまあ、我が社の人間はほとんど知っていることなんですけれども。何だか今になると、あの頃自分がゲイであることや、パートナーが風俗業に従事していたことがバレたら困ると必死になっていたのが嘘みたいです。 広報:アウティングされて、カミングアウトせざるを得なくなったということですが。 桂山:はい、あの時何があったのかを綴るだけで、1冊の本になりそうですからここでは省略で(笑)。パートナーや彼の会社にも助けてもらったんですが、以来彼の会社から定期的にヘッドハントの声がかかり、試練を受けています。 広報:弊社もぼちぼち声をかけますよ(笑)。まあいろいろあって二人の絆が深まったところで、彼が留学でアメリカに行ってしまい遠距離恋愛に……。 桂山:パンデミックのせいで、長くても2年半と言っていたのに、3年半になりました。メール、LINE、Zoomや時間が合えば電話、ありとあらゆる連絡方法を使いました。手紙が意外と新鮮で、お互いしばらくハマりましたね。 広報:相手の自筆を見る機会が無い世の中ですからね。 桂山:そうなんですよ。彼は一度も帰国できず、直接会いたくて泣きそうになったこともありましたが、振り返ると早かったです。相手が外国にいようが隣に住んでいようが、世の中でオンライン通話が当たり前になったのは皮肉なことで、みんな会いたい人と会えないのだからと、自分で自分を鼓舞していましたね。 広報:アメリカもごちゃごちゃしていた頃でしたよね、心配だったでしょう。 桂山:そりゃあもう、アジア人が襲われたなんてニュースを見るたびに即連絡して、ちょっと引かれました(笑)。彼は大学の寮にいたので、安全だったようです。ようやく帰国したと思ったら、2週間自主隔離しないといけなかったでしょう? 彼がいる成田のホテルまで差し入れと本を……ああ、彼は活字中毒なんですね、それでそういうものを持って行きました。最初の3日間の強制隔離の時は直接会えなかったのですが、ホテルの窓から手を振ってくれました。傍で海外駐在から戻ったご主人のためにいらしたという女性が同じことをしていて、彼女と一緒に泣きましたね。 広報:健気(けなげ)です、久しぶりにこんなジンとくる恋バナを聞きました。 桂山:暮らしていたマンションの、部屋数が1つ多いところにタイミング良く空きが出たので、5階から7階に引っ越して彼の帰国を待っていました。彼が自主隔離から解放され、同居が始まりました。もう毎日嬉しくて仕方なかったです(笑)。パートナーシップ制度は彼がアメリカに発つ前から検討は始めていて、制度への疑問もいろいろありましたが、住んでいる区が導入したので、申し込みました。 広報:それで今に至ると。めちゃくちゃ仲良しなんですよね? 桂山:小競り合いはしますよ、でも一緒の部屋で寝ていたら気まずさに耐えられないじゃないですか。 広報:何だかエロいですね。 桂山:普通でしょう。 広報:ああ、何故エロいと感じるのか分かりました。私パートナーさんのインスタをフォローしているんです。[※編集注 桂山さんのパートナーさんは、「Kanato」のアカウントでインスタグラムに週1回ご自分の絵を投稿していらっしゃいます。] 桂山:ああ……。 広報:エロ美しいと評判ですよね、モデルの「Akito」にも世界中にファンがいるし。 桂山:同名別人でしょう。 広報:そんなウソが通用すると思ってるんですか。とにかく皆さん、このカップルの閨事(ねやごと)を覗き見したいと思われたら、こちらをご覧ください。 桂山:やめて……。 広報:桂山さん虐めるの楽しい(笑)。パートナーさん、まさかベッドにスケッチブックを持ち込まれるんですか? 桂山:それを許していたらそれこそ変態ですね(笑)。全部記憶で描いています。気に入った瞬間が脳に焼きついて、それを絵に起こしているみたいな感じです。 広報:へぇ、すごい。桂山さんの表情や仕草をすごくよく見てらっしゃいますよね、モデルにファンがつくのが分かる気がします。ずっと見ていたら、桂山さんの博愛と癒しが伝わってきますから。 桂山:伝えておきます、喜ぶと思います。 広報:多才な方ですよね。 桂山:はい、そもそも私なんかにはもったいない人です。その気持ちはずっと変わりませんが、こんな私でも必要としてくれますし、私がこうしてそこらじゅうで彼と自分のことを晒しても笑顔で受け入れてくれるので、本当に有り難いです。何ですかね……金のわらじを履いた嫁? 広報:桂山さんのほうがだいぶ年上じゃないですか、使い方が間違ってます。 桂山:(笑)。パートナーにも叱られます、言葉にこだわる人なので。 広報:それに桂山さんはインスタで世界中に顔を晒されているので、おあいこではないかと。 桂山:そうですよね、軽く報復されているのかも。 広報:ではいつも桂山さんが尻に敷かれているような関係なのですか? 桂山:基本そうだと認識しています。でも……どちらかが出張に行って家を空けて、戻って顔を合わせたら、何だかずっとついて回ってくることがありますね。そういう時は私が受け止めます。 広報:可愛いですね(笑)。しかしほんとに桂山さん、放っておいたらいつまでも惚気(のろけ)ますねぇ。山中さんがムカつく気持ちわかります。 桂山:ええっ、じゃあ止めてくださいよ、というか惚気ているつもりは無いですよ、質問に答えているだけです。 広報:桂山さんだから許します。すごいですよね、このお惚気ダイバーシティ。 桂山:私は山中みたいに、自分のことをきちんと整理して、問題提起しながら話すなんて高度なことはできませんよ。だいたい、基本的に性的少数者の人権を守るために活動するなんて大それたことも考えていませんから、自分のことを話せと言われたら、こうなります。 広報:開き直った(笑)。大丈夫です、そんな桂山さんの「好きで仕方ない人が男だというだけ」という姿勢が、共感と理解を得ているのも確かなようですので。
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