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好きだという言葉と、陽斗の切なげな表情が、ずっと頭から離れない。
あの夜から、どんなに宿題が多い日も、陽斗はうちに来ることは無くなった。
教室で顔を合わせても、廊下ですれ違っても、挨拶すらしてくれなくなった。
喧嘩をしたのなら謝って済む問題だけれども、こればかりはそうもいかない。
陽斗が怒っているわけではないことは分かっている。
陽斗も私も、お互いにどう接したらいいのか分からなくて、気まずくて避け合っているだけ。
当たり前だけど、こんなことは初めてだから……。
期末テストが始まると、期間中だけは出席番号順に着席するので、必然的に私の前には陽斗がいる。
いつもなら、用事が無くても振り向いて話しかけてくれるのに、前から回されるテスト用紙を渡してくるときすら、振り向いてはくれなかった。
その背中を叩くと、太陽のように明るい笑顔を見せてくれたことが、まるで遠い記憶のように感じる。
こんなに近くにいるのに、今は手を伸ばすこともできない。
憂鬱な気持ちのまま受けたテストの結果は、可もなく不可もなくといった感じだった。
取り敢えずは一安心だけれど、陽斗はやっぱり散々だったようで、夏休みは補習決定だと教室中に聞こえる声で大袈裟に騒いでいた。
私がいないところでは、陽斗はいつもと何ら変わりない。
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