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夢中で走っていた。
もしかしたら、陽斗が追いかけてくるような気がしたから。
けれどもその様子はなくて、私は息を切らせながらゆっくりと足を止めた。
そこは偶然にも海翔と再会した場所で、川の流れる音だけが静かな夜の中で誇張しているように聞こえた。
陽斗が、何かを告げようとしていたときの出来事。
今だから分かる。
あの時、きっと陽斗は私に「好きだ」と伝えようとしたんだ。
でも私は、好きだなんて言葉、聞きたくなかった。
陽斗とはずっと変わらない関係でいたかったんだよ……。
多分、もう元には戻れない関係に、自然と涙が溢れてくる。
「……萌?」
大通りの方から、聞き慣れた声がしたので、指で涙を拭って顔を上げた。
そこには私服姿の海翔が立っていた。
「海翔……こんなところで、どうしたの?」
「塾の帰りだよ。萌こそ、何してるの?」
周辺が明るければ、きっとこの涙に気づかれていただろう。
今が夜だということに救われたと安心していたが、近づいてきた海翔はあっさりと私の異変に気づく。
「……泣いているのか?」
「……」
海翔と再会したとき、彼の冷たい態度に傷ついて泣いてしまった私を、優しく励ましてくれたのは陽斗だった。
陽斗は、どんな気持ちで私を元気づけてくれたのだろう。
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