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「……家まで、送って行くよ」
「大丈夫だよ、一人で帰れる……」
「もう暗いんだから危ないだろ。放っておけない」
そう言って、海翔はそれ以上何も訊かずに、私を家まで送り届けてくれる。
息が詰まりそうだった。
まだ、陽斗が部屋にいたらどうしようって。
「海翔……ごめんね」
「何が?」
「2年前のこと……」
陽斗が話してくれなかったからと説明するのは、告げ口をするようで気が引けた。
陽斗にそんな真似をさせてしまったのは、いつも彼の優しさに甘えてばかりの私のせいだ。
あんなにいつも傍にいてくれたのに、私は、陽斗の気持ちには応えられない。
だって、陽斗のことを恋愛対象として好きになれるのなら、もうとっくになっているはずだから。
10分程歩いて、家の近くまで着くと、海翔は「じゃあ」と軽く言って、歩いてきた道を戻って行く。
私もそのまま家に帰ったが、もうそこには陽斗がいないようだった。
さっきまであったはずの陽斗の自慢のマウンテンバイクが、姿を消していたから。
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