回想【prologue】

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. 山々に囲まれたこの街は、4つの県境に接している。 山岳地域という土地柄もあってか、夏はそれなりに涼しく、冬は雪が降り積もってやたらに寒い。 市街地にはかつての城下町の雰囲気が残っていて、春や秋のオンシーズンになると市街地には観光客が溢れていて、街は活気づく。 私がこの街に越してきたのは、10年前。 小学校に上がったばかりの春のことだった。 当時は極度の人見知りだった私は、知らない顔ばかりの教室に馴染めずに、学校が終わると毎日のように、4歳年上の兄の後ろをついて歩いていた。 一方の兄は、私とは真逆の明るく社交的なタイプで、すぐに新しいクラスにも打ち解けた。 その日も、小学校の友達と公園で遊ぶからと出かける兄に、私は一緒に行きたいとせがんだ。 萌はすぐ泣くからイヤだ、と言って聞かない兄を、母が何とか説得してくれ、兄は不機嫌な様子で私を一緒に公園へ連れて行ってくれた。 「俺はあっちでサッカーしてくるから、お前そこで遊んでろ」 「うん……」 「このこと、お母さんには絶対に言うなよ」 私を放ったらかしにして友達と遊んでいたなんて知れると、きっと母は兄を叱るに違いない。 それを兄も分かっていたのか、私に念押しをして友達の輪に混ざりに行く。 少し前までは、友達がいても一緒に遊んでくれたのに……。 .
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