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「萌、待たせて悪い」
「ううん、気にしないで」
そこまで時間が経っていたようには思わなかったけれど、実は30分以上待ち惚けていた。
多分、陽斗のことだから、友達を上手く振りきれなかったのだろうと思う。
さて、どんな風に切り出そうかな……。
単刀直入に好きと伝えるべきなのか、前置きをしてから徐々に話を盛り上げて伝えるべきなのか。
陽斗も海翔も、美桜ちゃんも楓ちゃんも、みんなこのプレッシャーを乗り越えてきたんだ。
だから、今度は私の番。
胸に手を当てながら深呼吸をして息を整えた。
「……公演、観に来てくれてありがとう」
「そんなの当然だろ。御礼を言われることじゃない……ってか、話ってそれか?」
「うん………あっ、違う!」
「どっちだよ」
緊張のせいか、話がうまく嚙み合わないけれど、陽斗は至って普通だ。
その時、外から和太鼓の音がした。
後夜祭が始まる合図だ。
ほんの少しだけ茜色に染まった空の下で、キャンプファイヤーの点火式が行われている。
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