水素

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ねぇ、迎えに来てくれないかな?」  時間は午前零時を過ぎている。きっと飲んでいるのだろう。電話の向こうはガヤガヤしている。この人に言われたら何も否定出来ないのはきっとこの人のことを好きだからだろう。 「はい、分かりました」  きっとこの人もそのことを分かって私に言っている。 それを私も分かって従っているんだから馬鹿としか言いようがない。  どこまで迎えに行けばいいかと聞いて電話を切る。こんな夜に車で出掛けるのは正直嫌だった。しかし行くと言ってしまった手前、行くしかない。しょうがない。腹を括って車に乗り込み、流行りの洋楽をかける。  何故だか分からないけどとても気分が良くなった 。さっきの憂鬱な気分はどこへやら。それは洋楽のおかげでも何でもなく、ただ“もうすぐ会える“ということだけだと自分でも分かっているのに気付かない振りをした。下手くそな英語で洋楽を口ずさみながら目的地まで車を走らせる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!