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そう思ったのも束の間、 夢のような時間は一瞬である。まるで私を現実に引き戻すかのように彼の住んでいるマンションの前まで来てしまった。前に何度か来たことがある。しかし中までは入ったことは無かった。
「着きましたよ」
本当は家の周りをもう2回くらい走ってやりたい気持ちを抑え、松村さんを揺さぶり起こす。すると松村さんは目をこすり、ボーッと私を見る。私もそんな松村さんを見つめた。
見つめ合うふたりは何だか間違いでも起きてしまいそうな雰囲気。いっそ起こってくれと願う時間。
しかし、現実はそんなに甘くない。
「ほんと、ありがとね」
そう言うと松村さんはいつもの笑顔に戻る。なんだ、少し期待した自分が恥ずかしい。今はそのチャーミングな笑顔にも少し苛立ちを感じるほどだ。
「じゃ、おやすみ」
またご飯行こうねなんて本当か嘘か分からない誘いを残して松村さんは車を降りていった。松村さんはこちらを振り向くことなくマンションへ入っていく。
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