この愛をすくって、指先から落として。

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 ――結婚するの。オルコット公爵の御令息の、クレイグ様と。お父様とお母様の養子になって、身分だって整えたわ。私がクレイグ様と結婚すれば、傾きかけた私の家は助かる。それを、私は受け入れるの。私はすっかり、貴族の御令嬢になってしまったわ。  結局、あなたに言い訳をしにきただけかもしれないけれども。大人になって、いろいろなことが分かったわ。私を産んだお母様が死んでも、お父様が泣かなかった理由。お母様が死んだって、お父様は冷酷に、平然としているように見えたけれども、泣いてはいけなかったのよ。伯爵家の嫡子が、愛人が死んだくらいで、泣き喚いてはいけなかったの。  お父様は、ちゃんとお母様を愛していてくださった。だから、私を引き取ってくださった。奥様も――お母様も、私を引き取ってから十年間、慈しみの情をかけてくださったわ。ひどい仕打ちなんて、一度だって受けなかった。それが伯爵夫人としてあるべき姿だったのだとしても、いただいた情は本物だわ。私は、お父様とお母様を守りたいと思ったの。だから、私は、クレイグ様と結婚をするのだけれども。  私はあなたを愛していたの。あなたと、結婚するのだと信じていたの。ずっとずっと、好きだったの。それを、あなたに伝えたかった。
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