この愛をすくって、指先から落として。

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 すっかり冷えた甘い紅茶を一口含む。あの頃と同じ味のそれを大切に飲み下しながら、「それからもうひとつ」と私は続けた。 「あなたたちを死神だと定める法律を、変えてみせる」  ジェイドは夜色の瞳で私を見つめる。 「貴族の令嬢で、貴族の夫人になるのだもの。サロンも、議会も、社交のパーティーも、私が手にした全てを以て、法律を変えるわ。だってあの日、私の心を、あなたが救った。今日だって、私はあなたに救われた。今の私があるのはあなたがいたから。あなたは死神なんかじゃない」  言い切ってから、自嘲するように静かに口元を歪める。 「……全部、愛を全うできなかった言い訳かしら。大人になると、言い訳が上手くなるものね」  かつての私が放った言葉の無垢な眩さを思い返しながら、俯いた。だけれども、ジェイドの手が私の頬に添えられた。肌に感じた温かさに慄いて、弾かれたように顔を上げたなら、額に、柔らかく儚く、くちびるが触れる。 「あんたのことが好きだった」とジェイドが囁く。私が息を止めると、切なげに目を細めて、彼は続ける。 「死神じゃねぇとあんたは言うけど。俺たちは死神だ。国民と死神の結婚は許されねぇ。それをやりゃ、あんたまで死神だ。あんたの人生を、死神に落としたくはなかった。だから、あんたを遠ざけた」
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