5人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃ、隣のK町でいいんだな?」
とオレは言い、オレの出身地の町のM温泉を目指すことにした。その温泉の付近の渓谷が紅葉スポットになっていたからだ。車で1時間半というところか。
汐音は後部座席でクロ達を撫でまわしている。猫が珍しいのかな。クロ達が必死でガマンしているのがよくわかった。平凛は助手席に座ったが、いつもの静かな平凛だった。
途中、道の駅という休憩所に寄って休み、目的地には9時ごろ着いた。
「うわああ……キレイ」
周りの紅葉を見て平凛はそう言った。あの平凛がだ。汐音もこういうのは初めてらしく、
「猫ちゃんホラ、キレイだよ?ホラ」
とか言って喜んでいる。連れてきてあげて良かったと思った。
「降りて歩いてみようか」
M温泉の駐車場が終点のような形で、オレはそこに車を止めた。この辺に遊歩道があることを知っていたからな。
遊歩道を三人で手をつないで歩いていく。今日は平凛がなぜか真ん中だった……。
渓谷をゆっくり一回りし、川原の木陰で昼食を摂ることにした。
神宮寺家御用達のシェフの腕は本格的だった。こんな田舎の山の中で食べられるレベルではない。
「いやー、うまかったよ。平凛は毎日こんなん食べてるのか?」
「今日はダンナ様と一緒だから特別なんですよ。でもありがとう」
オレは朝が早かったこともあり、シートの上に寝転んだ。腕枕をしていたら、すぐ横に平凛がきて正座した。「ダンナ様……」
どうも膝枕をしてあげると言いたいらしかった。オレはちょっとためらったが、今朝の夢を思い出してしまった……。それに、女に恥をかかせたら悪いよな。これは言い訳なだと自分でも思った。
最初のコメントを投稿しよう!