1.神宮寺アリサ

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1.神宮寺アリサ

~物語は岡野孝一巡査長のいた200年後から始まります~  私の名前は神宮寺アリサ 27歳。ある大学院内の時間遡行(そこう)研究所 所長という肩書が付いている。「時間遡行」という名前のとおり過去への時間遡行(タイムトラベル)の研究がメインで、理論はほぼ確立できているが、問題は送るものの大きさだった。  動物実験では猫くらいまでの大きさならクリアできているけど、人間くらいの大きさのものを送るのはまだ成功していない。昨日もチンパンジーを送る実験で失敗したばかりで、今日はその反省会議をしているところだった。 「やはり人間を送るのはまだまだ無理があるようだな」 前所長は何かにつけて私のすることにイチャモンを付けてくる人だから、今日は真っ先にイヤミを言うと思ってたわ。  私が若くして所長に抜擢されたのを快く思っていないみたい。 そりゃそうよね、自分が君臨してた時は、さんざんぬるま湯につかっていた場所だもの。そこを、あっさり取られたんだものね。  この研究所内では主に二つの派閥に分かれていて、私のすることが気に入らない人達が半分ほどいる。それが前所長派。たいした実績もなく毎日をのほほんと過ごしている「事なかれ主義」の連中だった。  私が昨年猫を過去に送ることに成功して所長の座に就いたことを喜んでくれたのはごく少数だった。今でこそ半分くらいに増えてきたけども……。それが残りの派閥ね。 「とりあえず、人間を送る計画を凍結したいと思うんです」 と私は言った。「それはどういう意味だね?研究を放り出すのかね?」 と前所長。「違います。手段を変える、つまり方法を変えてみるということです」 「方法を?」 「はい。人間を送る意味は過去の歴史への干渉。つまり極端な話、歴史を変えるということです。そのために一人の人間を犠牲にするというのは、いかがなものでしょう?」 「君は我々の目的を否定するのかね?」 「そうではありません。先ほども言いましたが、別の方法をとるということです」  前所長はテーブルの上の水差しから水を乱暴にコップに注ぎ、下品に音を立てて飲み干してから続けた。 「別の方法も何も、そういうことは手段を考えてから言いたまえ。話にならん」 「そうだそうだ!」 前所長派の者たちが同意して、前所長始めその連中は、席を立ち出口に向かおうとしていた。 「あります!」
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