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【番外編】ある日の逢瀬 EP12と13の間のはなし
「ちょ、……ゆう、せい」
「なに?」
「これ以上増えたら、隠しきれな、あっ」
ちゅうっと首周りを強く吸い付かれる。今日はもうこれで三ヶ所目だ。
「公季が悪いんだろ? いつまでも先輩呼びするから、身体に教えてるんだよ」
吸い付いた部分をペロッと舐め上げ、侑生は煽るようにニヤリと笑う。
また見えるところに付けられてしまった。
「……もっと、目立たないところがいいです」
「それじゃあお仕置になんねぇだろ。今日は四回『先輩』って呼んだから、あと一ヶ所な」
「あ! ひゃっ、くすぐったい」
「感じてんの? 可愛い」
可愛いという言葉に心臓が大きく高鳴る。
からかっているのではなく本心からの言葉だと思うと、今までの蓄積された切なさが粉々に砕けていくような気持ちになる。
侑生が「可愛い」と言ってくれるのなら、もうどんなに印を付けられても幸せだとすら思えてきた。
侑生と思いが通じてから、こうして部屋に呼ばれ身体を触れ合わせるのはまだ数回目だ。
敬語もやめて先輩ではなく名前を呼ぶよう言われたが、そんなにすぐに順応できない。
今日も何度か「先輩」と呼んでしまい、訂正も虚しくお仕置きをされている。
「あれ、俺こんなとこに付けたっけ?」
公季のTシャツの襟をグッと伸ばしたまま侑生は固まる。
ぎくりとした。
思い当たる出来事が頭に浮かぶが、公季は知らないフリをする。
「あるってことは、付けたんじゃないですか?」
「いや、いつどこに付けたかは全部覚えてる。これは覚えがない」
そう言って右肩の赤みをそっと撫でる。
新旧の複数の痕がある中、何でこれだけ自分が付けたものじゃないと見抜けるのかと公季は驚愕する。
「おい、誰に付けられた?」
「……」
もう自分がシラを切っていることは侑生にはお見通しのようだが、なんとか誤魔化す方法はないかと頭の中で模索する。
――チッ
舌打ちと同時に、侑生の顔が険しくなっていく。
「ふざけんなよ。俺が知らない間に誰と遊んでたんだよ」
他人と遊んでいたなんて決めつけられたことに、公季は僅かばかり苛立ちを覚えた。
だから、つい魔が差してしまったのだ。それに、侑生の珍しく余裕のない様子も面白くて、それも起因したのだろう。
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