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2 理由
「なぁ、いつもより興奮しない?」
「あっ、……そ、そうかも……しれないです」
侑生の扇情的な言葉にひどく興奮する。本当にこの人は、自分の奥底に眠る欲望を暴き出すのが上手い。
公季は今、侑生の部屋にいる。日々蓄積される欲を吐き出すためだ。
侑生の指示によって、本来誰からも見られることなく処理するはずのこの行為を、公季は彼の前で行うのだ。
やっていることと言ったら、この男に見られながら、ただ自らの手で自身の欲を慰めているに過ぎない。直接彼が公季の身体を触ることも決してない。
それなのに、虚しいだけのはずなのに、侑生の鋭い目が、公季に勘違いをさせる。自分の快感が、一部侑生に共有させているような、そんな感覚に陥らせる。
かといって彼は表情を崩さないし、この行為によって彼に何がもたらされるのかも検討がつかない。
だけれど、終わった後に見せる満足そうな、少し狂気じみた表情が公季は好きだった。自分の初恋である侑生のそばにいられる理由がそこにはあったからだ。
たった今、下着に手をかけているところだった。
この行為はもう何度目かになるが、なぜか今日は初めて侑生のベッドに座っている。いつもは床だったのにも関わらず。
侑生にとっては好きでもない、むしろ仲が良いわけでもない後輩、しかも自分を性的な意味で好いている輩だというのに、自分のベッドに座らせるなんて嫌悪感はないのだろうか。こんな行為を命令してくるくらいだから、その辺りは気にも留めていないのか。
いや、あちらが気にしなくともこっちは気にする。いつも侑生が寝ているベッドなのである。
ベッドフレームもマットレスも、寮に備え付けのものであるから、公季が使っているものと形も素材も全く同じだ。
だけどこれは、明らかに――別物だった。
「脱がないの? あ、やっぱベッドだと緊張しちゃう?」
「そりゃ……、ベッドじゃなくても緊張はしますけど」
いつもと違う特別感に、身体が縛られているようだ。こんなことに高揚感を感じるなんて悟られないように、公季は必死であった。早く下着を脱いで、始めなければいけないのに、思うように身体が動かない。
「……ね、リラックスしてよ」
こんな状況で心を落ち着かせられるわけがない。
しばらくの沈黙の後、侑生はいつもの観客席である椅子から立ち上がり、公季の隣に座った。ベッドが沈み、その振動が伝わってくる。
びっくりして侑生に目を向ける。
自分とは正反対の、余裕の笑み。肩が触れそうな距離に心臓の鼓動が加速する。こんな近くで侑生を見るのは初めだ。いつもは恥ずかしさの方が勝って、顔なんてほとんど見られない。でも今だけは、緊張で身体が固まってしまうほど、限界なのだ。
軽く混乱状態の中、公季は侑生の目を見つめ続ける。
「ほら、深呼吸」
侑生はそう言いながら公季の肩を抱き、そのままベッドに横たわらせた。
「ええっ? 何してるんですか」
「横になった方が、落ち着くかなって」
さらに心拍数が上がる。全く逆効果なのだが、侑生はそれを分かって楽しんでいるようだ。
お互い向き合いながら、シングルのベッドに横になっている。侑生の方を見ると、自信に満ちたような顔をしていた。
「ねぇ椎名、膝、……痛い?」
一瞬何の事かと思ったが、膝にできた痣のことだろうとすぐに気づく。
「俺が毎日床でさせちゃったからだよね。ごめんね」
「いや、こんなの全然大した事ないですよ」
「そう?」
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