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14 最後の日
開花前の桜の木が、春の暖かな日差しを浴びている。そしてすっかり空になった自分の部屋に、心寂しさを抱く。哀愁漂う雰囲気の中、侑生が唐突に口を開いた。
「なぁ、公季。寮でのセックス納め、しようか」
今日は卒業式だった。寮生活最後となる日、侑生は空っぽの自室で公季と過ごしていた。
荷物を全て片付け清掃も終えた後なので、生活感は欠片も残ってはいない。シーツのないベッドのマットレスが、その寂しさを象徴している。
そんな何もない部屋でも、こうして公季と一緒に寛ぐのは侑生にとって久しぶりであった。受験期間にしばらく東京のホテルに泊まっていた以外は、冬休みから現在まで、ほとんどを実家で過ごしていたからである。
合格の知らせを受けてから、東京での新居探しや新生活の準備に慌ただしく、思うように公季との時間も取れなかった。前回会ったのも、この部屋の荷物を片付けに来たわずかな時間だけ。そして来週からは引越しという大イベントも残っており、しばらく落ち着きそうになかった。
「え、今ここでですか?」
「うん。寮でできるの、今日が最後だろ? それに、制服でするの、新鮮じゃね? 俺はもう汚れてもいいし」
同意を得る前に、公季のネクタイを緩めていく。
いつもラフな部屋着で会っていたせいか、公季の肌に触れるための行程の多さをもどかしく思う一方、楽しくも感じる。
「式に出席するわけじゃないのに、脱がされるためにわざわざ着たんだな」
公季がわかりやすく大袈裟に反応する。
「えっ、いや、そういうんじゃ……。侑生の門出を祝う日なんだから、そりゃきちっとしますよ」
正装できちんと送り出したい気持ちも、脱がされたい期待もどちらも本心と見た。
「ふーん」
シュルシュルと簡単にネクタイを外し終え、シャツのボタンに手をかけながら、侑生はどうやって寮生活最後を締め括るに相応しいセックスをしようか考えていた。
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