14 最後の日

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「ちょ、床、痛っ!」 「あはは、俺も今、尾骶骨(びていこつ)ゴリっていったわ」  座ったまま抱き合うような体勢から、キスをする度にちょっとずつ二人の重心が偏ってしまい、硬いフローリングはそれを全く緩衝してはくれなかった。  二人ともシャツがはだけ、ベルトのないズボンは緩んだままだったが、お互いに痛みを口にした途端、もはや雰囲気も何もなくなってしまった。  そのまま二人は寝転がると目が合ってしばらく笑い合う。  ベッドが視界に入るが、流石にシーツのないマットレスの上で致すのは、次の入室者へ申し訳ない。  まぁ、笑って終わるのも悪くはないか。いつの日か、思い出話になるだろう。  侑生はセックスを頭から離すことにし、ずっと気になっていたことを問いかける。 「そういえばさぁ、何で俺のこと好きになったの? 良い加減教えろよ」 「う、それは、……」  公季に好きだと言われた日、それまで面識はなかったはずだ。以前同じ質問をした時は、適当にはぐらかされた。いつもは素直に言うことを聞くため、返って気になってしまう。  だが今日は特別な日だからか、話す気になってくれたらしい。 「その日は、俺にとって……割とベストスリーに入る、……人生の転機で……」 「はぁ?」 「かっ、かっこいい人だなって見てたら、すごくかっこいい人だったのを知って、」  遠回しで歯切れが悪いが、一生懸命伝えようとしているので、黙って聞くことにした。 「……とにかく、一目惚れでした。『好きなことを全力で楽しんでるやつが一番かっこいい』って、……侑生が友達と話してるの、聞こえたんです。俺、親の目ばっか気にして生きてきたから、すごく響いて。それからずっと目で追ってました」  いつか忘れたが、佐山にそんなことを偉そうに語ったのを思い出した。自分の言葉なんかに公季は価値を見出していたというのか。  素直に嬉しいと思う反面、こんな純粋な好意を自分は(けが)していたのかと、やるせなさが残る。次のセックスのときは、いつもより甘やかしてやろうと心に誓った。 「ありがとう、公季。俺を好きになってくれて」  公季は照れ臭そうに「うん」と応え、まだ何か言い足りなそうにしている。  両手で顔を覆い、目だけを指の間から覗かせてこちらをうかがう仕草が可愛くて堪らない。 「……あの、それで、さっきの続きは?」 「うん、俺も今同じこと考えてた」
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