14 最後の日

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 受験の全日程が終わってから、親戚の家に挨拶に行ったり東京のアパートの下見に行ったりと、忙しくも充実した日々を過ごしていた。その中でも連絡は毎日取っていたし、愛情表現も怠っていなかった。  ただ、この関係は元々は侑生の気まぐれな自己満足のために始まったものだ。公季にとっては、まだ思いを通わせていなかった頃の印象も強いだろう。  その分を上書きするくらい愛情で満たしてやらなければいけないのだが、何故か十分できていると思い込んでしまっていた。  そんな自惚れが、公季を苦しめていたのか。 「はぁ」  深いため息が漏れてしまう。 「侑生、お願い。もう解れたと思うから……、入れてください」  公季は顔を背けたまま四つん這いになり、尻をこちらに向けた。必死に手で顔を隠し、羞恥に耐えているようだ。  十分に柔らかさを持ったそこは、公季の色白の肌によく映えており、綺麗だと直感した。消極的な気持ちが、期待へと変わったのが分かった。  侑生はそこへ自身のものをあてがい、公季の反応を覗う。 「じゃあ、入れるよ?」 「んっ、」  指ほどではないが、そこは想像よりスムーズに受け入れてくれた。  顔は見えなくても怯えていることは十分に分かるので、なるべくゆっくり進めていく。 「あっ!」 「痛い?」 「い、痛くないです。……侑生は? 気持ち悪くない?」 「なぁ公季、お前の中で俺のがどうなってるか、わかるだろ? ……すっげぇ気持ち良いよ」  動くたびに膝が硬い床に当たっているが、そんなこと気にならない程に公季への愛しさが込み上げる。 「……う、よかっ、た」  すすり泣く声が聞こえる。やはり公季は一向に顔を上げようとしない。  侑生は公季に覆い被さるようにして、耳元で囁く。 「顔上げて。キスしよう」  顔の至る所にキスをしながらゆっくり動いていると、徐々に慣れてきたのか公季は自ら腰を動かし始めたが、その理由はすぐに分かった。 「床オナしてんの? せっかく掃除したのに」  公季は腰を低くして、湿り気を持った先端を床に擦り付けていた。 「あ、ごめ、」 「嘘だよ。後で一緒に綺麗にしよう」  性欲に勝てないところは相変わらず可愛いと思う。頭を撫でながら、うなじにキスをした。 「でも擦り付けるのはよくない。俺が手でするよ」 「え、あっ、だめ。ゆうせいに、さわられたら、すぐいっちゃう……」  だめとは言うが、本当は「してほしい」の意味だ。  侑生は求められている場所へ手を伸ばし、どうしたら気持ち良いか熟知しているそこへ、絶妙な加減で力を入れる。 「イっていいよ」 「んっ、ああ!」  今日一番の大きな声が、空っぽの部屋に反響した。    コンドームの中に溜まった液体を見て、公季はニヤニヤし出す。 「侑生、本当に俺の中でイったんだ」 「そうだよ。気持ち良いって言っただろ」  侑生は使い終わったゴムの口をくるんと結び、ティッシュにくるめる。 「よかった」  そう言って公季はホッとした表情を見せた。 「ごめんな。不安にさせて……。多分、これからも不安にさせること、あると思う。でも俺は本当に公季のこと、大事に思ってるから」 「うん、ありがとう」  柔らかい笑顔が西日に照らされ、侑生も釣られて微笑む。 「寮でのセックス納め、できましたね」  部屋に落とされた二人の長い影は、ゆっくりと一つに重なった。
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