15 もう大丈夫

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15 もう大丈夫

 侑生はATMで、親が適度に補充してくれている口座からお金を下ろしていた。    あ、失敗した。  いつもは一万円札が出てこないよう、お札を全て千円札で引き出しているのだが、ついその機能を使い忘れてしまった。  高額紙幣の肖像と目が合い、サッカー部の主将として全国大会へチームを引っ張って行ったアイツを無意識に連想してしまう。  そういえば奴、プロへの内定を決めていたんだったな。  プロサッカー選手か。  サッカー少年だった頃は、何度も夢に描いていた。たくさん活躍して、日本代表にも選ばれて、世界にだって行けると思っていたんだ。あの頃は。  サッカー部の見学に行った時、諦めずに入部して練習に打ち込んでいたら、何か違っていただろうか。  その時、公季の存在がふと頭をよぎる。  いや、いくら練習して上手くなって、仮にレギュラーとして全国の舞台に行けていたとしても、隣に公季がいなかったら、それは意味がない。  劣等感に歪んでいた自分だったから、彼に出会えたし好きになったんだと思う。  絵に描いたような華々しい経歴なんてなくたって、公季と一緒に過ごせる未来を取りたい。  俺は公季とこの先幸せに生きていくから、アイツはアイツでプロサッカーライフを思う存分に楽しんでくれたらいい。もし日本代表に選ばれたら、テレビでワールドカップくらいは観てやるか。  不思議なことに、憎かったはずのアイツを応援している自分がいた。  そっか、もう自分はそういったものに囚われていないんだ。  ATMでわざわざ千円札だけ出すなんてことも、これからはしなくていい。
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