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【番外編】いつかのために EP13と14の間のはなし
「俺、痛ぶるのは趣味じゃないんだけど」
侑生の冷たい声が部屋に響く。
二人でベッドに入り、これから過ごす甘い時間を期待していた公季は、その一言に胸騒ぎを覚えた。
「痛くないです……! だから、」
「……あのさぁ」
彼の大きなため息は、これ以上の説得は無駄であると言っているようだった。
言葉がダメなら体現して証明しようと、公季は下を脱ぎ後ろの孔に指を滑らす。
「うっ、」
しかし慣らしきれていないそこは、一本の指すら受け入れてくれない。
こんなはずじゃなかった。侑生に喜んでもらえるはずだったのに。
さっきまでは、いつものように蕩けるようなキスをしながら、お互いの熱を触れ合うことで確かめ合っていた。
「好き」と何度も囁き全身で愛情を注いでくれる。
十分に満足ではあるが、公季は好きな人と共有する性の快感を知ったばかりだ。もっと深く繋がれるのであればどんなに幸せなのかという好奇心は、抑えられるものではない。
そしてその行為で侑生をさらに気持ち良くさせてあげられる。それならと、次の段階を自ら提案した。
だが、明らかに一歩引いたような態度に後悔が押し寄せる。
でも自ら言い出したことだ。後に引けない。
焦りから無理に指をねじ込もうとするが、それ以上の侵入は拒まれた。緊張のためか、そこはヒクヒクと小さく収縮を繰り返すだけだ。
侑生を気持ち良くすることのできない自分の性を呪った。
「あー、もう無理しなくていいよ。どうしてもやりたくなったら俺は女を抱けば済むんだし」
侑生の心ない発言に固まる。
違う、侑生がそんなこと言うはずない。
「元々、男には興味ないしさ。まぁ、飽きるまではお前と付き合ってやってもいいけど」
こんなの虚像だ。
本物の侑生なら、人を貶めるような発言はしない。それに、真面目な話をしている時にこんな虚空を見つめるような態度、彼は絶対に取らない。
侑生、こっちを見て。侑生――!
ヴーヴーと、アラームのバイブレーションが静かに朝を知らせる。
目を覚まし辺りを見渡すと、見慣れた自室のベッドの中。夢であることは分かっていた。それでもこの夢は、そう遠くない未来を暗示しているとしか思えない。自分が誤ったことをすれば、きっとこれに近いことが起こるのだろうと。
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