160人が本棚に入れています
本棚に追加
実際のところ、侑生と結ばれているという事実すら、たまに都合のいい夢なのではないかと考えてしまう。
高校に入学してからずっと憧れていた人。初めて好きになった人。その侑生と、同じ気持ちで隣にいられる。
信じられないと言えば、彼は息でもするかのように何度でも好きだと言ってくれる。
この前も二人で神社に参拝した時、同じ未来を歩んでいけるのだと嬉しさに心が沸いたばかりだ。
それなのに、侑生の言霊パワーをもってしても、やっぱり男じゃダメだったと言われたらどうしよう、そんな不安が再燃してしまった。
昼休み、公季はメッセージアプリのトーク画面を開き、侑生との過去のやり取りを遡っていた。
今は頻繁に連絡を取り合っているが、一度に何往復も続くわけではない。数回のスクロールで、いちばん最初のメッセージに辿り着いてしまった。
その時の侑生からのメッセージは、
『今日は来ないの?』
という事務的な内容だった。
あの頃は、利用する側とされる側という関係でしかなかった。
それからしばらくして、他愛のない話もするようになって、身体を触れ合わせるようになって……。
画面に人差し指を滑らせる。
『椎名、目の腫れひいた?』
これは初めて侑生の部屋に泊まった翌日のやり取りだ。
その日は泣くまでめちゃくちゃに苛められ、最後は侑生の手で直接イかされそのまま寝落ちしてしまった。だが不思議と怖くはなかった。それ以上に、底知れぬ快感を覚えていたからだ。
そんなことを知られるのは恥ずかしいので、翌朝は何とも思っていないフリをしてしまった。
二回の通話履歴の直後。
『公季のこと好きだよ』
夏休みが終わって再会した日の次の日だ。初めて人から言われた「好き」という言葉。しかも突然の名前呼び。
何度もこの部分を見てはニヤニヤしてしまう。実は密かにスクショも撮ったのだが、何かの拍子で侑生にカメラロールを見られそうになり慌てて消してしまった。
スクロールを続けると、会わない日には必ず送られる「おやすみ」のメッセージが時折目に留まる。連絡がマメなところは、几帳面な侑生らしいと思う。
『今日、来れる?』
「っ!」
今この瞬間に突然メッセージが届き、心臓がドクっと脈打った。
一呼吸おいて気持ちを落ち着かせる。
了承の返事をすると、『なんか用あった?』と返ってきた。一瞬で既読がついたのだから、そう思うのは当然だろう。
正直に言うのは少し恥ずかしいが、侑生に誤魔化しが通用しないことは今までにもう何度も思い知っている。文字通り、この身をもって。
最初のコメントを投稿しよう!