【番外編】いつかのために EP13と14の間のはなし

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 ツルン、と侑生のものが()()公季の窄まりのところで引っかかり、前後の動きが止まる。指で解してきた部分に、切望していたものがぴったりと触れている。  この状況にひどく興奮した。このまま自分が体重をかければ、自然に挿れる流れに持ち込める。待ち焦がれていたことに、あと一歩で届く。  口に出すほどの勇気がないので、我ながら上手い誘導ではないか。そう思って力をかけた途端、腰を掴まれ侑生から制止がかかる。  少し焦るが、拒否の意ではないと思いたい。きっと生でその行為に及ぶのは抵抗があるからだと自分を信じ込ませた。「ゴム付けさせて」と言葉が続くと期待する。  もしくは、なんだかんだ優しい侑生のとこだから、「痛いんじゃないの?」とか「本当に挿れていいの?」と気を遣ってくれるかもしれない。  しかし、そんな期待はあっさりと打ち砕かれた。 「次は公季が下な」  と、侑生によって身体が反転させられ、体勢が今までと逆になる。  後ろの孔からは欲しかったものが離れ、触られることすらない。一瞬にしていつも通りのセックスに戻ってしまった。   ――遠回しに避けられたんだ……  失敗する以前の問題。痛がらないように練習さえすれば上手くいくなんて、あまりにも浅はかで役に立たない理論だった。  そんな切ない気持ちで胸がいっぱいになっても、今は侑生のターンだ。感傷に浸る暇なんて持たせてくれない。  深く甘いキスに酔いしれながら、あっけなく侑生の手でイかされてしまった。    手早く後処理を終えて寝る準備が完了し、「おやすみ」と耳にキスを落とされる。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。侑生はもう寝入ってしまったようだ。  一方で公季はなかなか寝付けないでいた。先ほどの出来事が頭の中で反芻する。  受け入れる準備をしてきたその場所が、とにかく寂しい。束の間だったけれど、そこに触れた侑生の体温と感触は今もはっきりと残っている。    無情に時が過ぎていく感覚の中、彼の寝顔をじっと見つめながら呆然とする。  たとえ物理的に受け入れられるようになったとしても、一般的に考えてココはそもそも男が挿れいたいと思う場所じゃないんだ。  侑生が本当に身も心も気持ち良くなれる器官は、男の自分には生まれつき存在すらしていない。  侑生の寝顔がだんだんとぼやけてくる。目が腫れてしまうから、目頭に集まってくるものを流さないように必死で堪えた。  今の自分にできることは、侑生が挿れたいと思い立った時にいつでも受け入れられるように、この場所を慣らし続けることだけだ。  そして侑生がそう思わなくても、いつか……。  いつの日か、自分から挿れてほしいとお願いできる勇気が備わることを信じて――。  公季がやっと寝付いた時、隣から伸びてきた両腕が彼をぎゅっと抱きしめる。 「……愛してるよ」  寝言とも取れる小さな声。  腕の中の愛しい人にこの声が届くのは、もう少しだけ先の話。
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