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夢子は一馬によって愛に目覚め、一馬の愛を手中にしたのであった。だから他の男を糞みたいに感じ、一心に一馬に愛情を注いだ。で、二人は朝も晩も恋路ヶ浜を一緒に歩き、雨の時は相合傘で歩き、また或る時はアルファスパイダーで海沿いの道をドライブし、また或る時は再び貸切露天風呂に混浴で入って愛を深めて行き、早くも結婚する意志を固め、伊良瑚ビューホテル滞在中に挙式場を話し合って決めた。そこは広大無辺な海と空の青さにマッチする青々とした芝生が鮮やかなガーデン式場で伊良湖ビューホテル敷地内にあり、二つの恋人の聖地である恋路ヶ浜と神島を望むことが出来る絶景に囲まれた最高のロケーションなのだ。
一馬は伊良湖ビューホテルで行うブルーリゾートウェディングに思いを馳せながら夢子と伊良湖ビューホテルを一緒にチェックアウトすると、善は急げで夢子をアルファスパイダーの助手席に乗せ、長躯、豊橋市羽田町にある夢子の親元へ行くべくアルファスパイダーを走らせた。
一馬は両親を既に亡くしていて結婚報告をしなくていいからいきなり夢子の両親に結婚挨拶をしようというのだ。結果から先に言うと、すげなく反対された。一馬の話から夢子の父が旧弊で堅実にして厳格な質だけに一馬の家柄が話にならないとした上、一馬の事業が不確実で投機性が高いと判断し、尚且つ家出女をホテルでナンパしたと受け取って一馬にチャラい印象を受け、一馬は完全に拒絶されたのだ。しかし元々勘当されても構わなかった夢子は、引き留めようとする親を振り切って一馬と共に母屋を出てアルファスパイダーに乗り込んだ。
「いいんだね」
「ええ、何処へでも一馬様について参ります」
このいじらしくなる程に健気な言葉に一馬は絶対夢子を手離してなるものかと不退転の決意を固め、屋敷を後にした。
それからというもの二人は結婚式へ向けて準備に入った。と言っても結納とか両家顔合わせとか食事会とかしなくていいし、夢子は一風変わった古風な女故に友達がいないし、そんな夢子に惨めな思いをさせないよう一馬は敢えて仲間を呼ばないことにしたから実にシンプルに挙式を行なえることになった。で、婚約指輪や婚約記念品や結婚指輪や新郎新婦の衣装を購入することと入籍日を決めることと結婚式場の予約を取ることと婚姻届けを提出することくらいで済んだ。
結婚式の当日、二人は豊田市配津町にある一馬の家からアルファスパンダーで出発した。天気は快晴。だからオープンで而も一馬は白いタキシード姿、夢子は白いウェディングドレス姿だからこれはもう人目を引くこと間違いなしだ。なんという素敵で艶やかな洒落たカップルなのだろう。そして二人の挙行する結婚式は二人を取り持つ神父だけが参加するとても寂しいものだけれど、天候に恵まれ絶好の野外結婚式日和で光彩陸離とした大いなる青い海と空が二人をこれでもかというくらいに明るく祝福し、二人が結婚指輪を交換して永遠の愛を誓った時、幸福のシンボルたる白い鳩が青空へ元気よく飛び立ったのであった。そして結婚式後、新郎の一馬と新婦の夢子を乗せたアルファスパイダーがブライダルカーとなってテールに結び付けられた数多の空き缶を派手にガラガラ鳴らしながら町々を華々しく駆け抜けて行くのであった。
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