雨玉と夕顔

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「今日は小さな雨粒の雨玉の作り方を教えよう。もう少し上手くなったら今度から自分で作った雨玉を自分でかじって送るんだよ」 「はい」  大きく頷き、後片付けをする。するとふわりと雨の匂いがした。おかしい、この部屋で雨の匂いがするなんて。雨は地上だけに降るはずなのに。 「つまみ食いできないか機会をうかがっているのさ、だからしっかり蓋をしているんだ。卑しい子にあげる雨玉は一欠片だってない」  先生は僕の疑問を解消するように言った。なるほど、見えないから来ていたのか。先生は蓋をしっかりと締め直し、雨玉の片割れたちを二重になっている箱にしまいしっかり鍵をかける。 「少し離れて居なさい」  先生の言葉に僕は部屋の隅に移動した。先生がすぅ、と息を吸って、思い切り吐き出す。  轟、と音が鳴り部屋の中のものがすべて外に放り出された。先生の後ろにいたとはいえ僕自身が吹き飛びそうだ。風にかき混ぜられ着ているものがバサバサと音を立てて舞うのを必死におさえる。物は置いていないから外に吹き飛ばされたのは窓際に活けていた夕顔のみ。 「部屋にまで入ってきて、本当にどうしようもない子だね。雲は空に浮いているものだ、部屋に入るものではないというのに」 「先生、夕顔が飛ばされてしまいました」 「ああ本当だ。夕立の時夕顔も降ってしまうね。いやあ、困った困った。雨以外のものを降らせてしまうなんて。まあ同じ夕の字がつくもの同士だ、大目に見てもらおう。叢雨、すまないが外に生えている夕顔を摘んできてくれないかな」 「はい。そういえば、何故ここは夕顔だけ咲いているのですか?」  ここから少し離れた場所に一面に咲き乱れる夕顔。この部屋には夕顔を飾る風習がある。 「魔除けだよ。罪人にぴったりな花だ。一輪じゃ足りなかったみたいだ、花を三つ摘んできておくれ」  ふわり、ふわり。  風に舞った夕顔がゆっくりと地上へと落ちていく。夕暮れが雲に覆い隠され間もなく夕立だ。それを見届けていると、雨の匂いとともに、誰かのすすり泣く声が聞こえた気がした。 END
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