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「これだけの年⽉が経ち、それでもまだ椋くんにその⼒があるのなら。きっとその⼒は、無念の死を遂げた別の誰かの、それこそ必死のメッセージを受信しているということではないだろうか」
「そうでしょうか」
椋は、⼼がどこか遠くに⾏くような感覚に囚われながら呟く。だが、次に続いた真崎の⾔葉に、ハッと息を呑んだ。
「犯⼈逮捕は、遺族の⼼を、ほんの少しだけでも癒やしてくれる」
「真崎さん……」
「わたしは、そう信じて刑事を続けている」
強く言い切り、真崎はソファから⽴ち上がった。
「明⽇、迎えに来るよ」
念を押すような真崎の⾔葉に、⼾惑いながらも椋は頷く。
「わかりました」
隣の広⽃が椋以上に複雑な表情をしていたが、ついに⼝を出すことはなかった。
真崎は再びジャケットを⼿に取り、柔らかく微笑む。
「明⽇は泊まりの⽀度をしておいてくれ。それでは、今⽇は失礼するよ。⻑らく邪魔をしたね」
椋をリビングのソファに残したまま、広⽃は真崎を⽞関まで送っていく。
上がり框に⽴ち、⾰靴を履く真崎を⾒守る。
「真崎さん。本当に明⽇、椋さんを迎えに来るんですか」
問いかけの声は低く、まるで椋に聞かせたくないもののように潜められている。
「ああ。あとからどうしても嫌だと⾔われなければ、そのつもりだ。嫌だと⾔われても、迎えにくるだけ迎えにくるかもしれないがね」
「なら、そのときは俺も⾏きます」
靴を履き終えた真崎は、少し驚いたように⽬を瞬いてから、広⽃を⾒た。彼は⼀切引かないという確たる姿勢を⽰している。
「部外者は困る、と⾔ったら?」
真崎の試すような問いかけに、広⽃は声を絞り出す。
「真崎さんは、椋さんが⼒を使うことの⾟さを理解しているつもりだと⾔ってましたけど、俺から⾔わせて貰えば、⼀ミリも理解できてませんよ。椋さんが、どれだけ苦しんでいるのか……本当は殺⼈現場になんて、絶対に⾏かせたくないんだ。それでも、椋さん本⼈が⾏くと⾔うのなら、俺は必ずそばで椋さんを⽀える。許可されなくても、⾞のボンネットにしがみついてでもついて⾏きます」
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