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そこで、真崎はもともと低い声をさらに低めた。
「そのパートナーとして協力を要請する者が、いわゆる超能力を持つ、霊能力者なんだ」
「霊能力者」
椋の隣で、広斗が何の感情もこもらない声で繰り返した。椋はその声音から、彼の戸惑いを感じ取る。椋自身も同じ気持ちだ。
困惑気味の二人の様子に気づき、さらに真崎が説明を付け加える。
「SPTって、最近よくニュースになっているんだが、知らないかな?」
問い掛けに、広斗が首を振る。この家にはテレビがなく、新聞もとっていないため、二人とも世間の情勢には疎い。しかし、椋はその単語をどこかで聞いた覚えがあり、曖昧に頷いた。
「名前だけは、耳にしたことがあるような気がします。不勉強ですみませんが、どのようなものなんですか?」
「FBIで、霊能力者を特殊捜査員として迎えたSPTというチームが結成されたのだが、このチームがすごく実績を上げていると話題なんだ。それを日本の警察でも取り入れようということでね。アメリカと同じ方式を採用し、霊能力者に捜査の方針を全面的に委ねるチームの運用が、今回実験的にはじまるんだよ」
「なるほど。そのSPTを日本版にしたものが、真崎さんが係長になられるという異能係なんですね」
広斗がまとめた情報に真崎は頷いたが、そこで彼はいっそう表情を曇らせる。
「ああ。そのとおりなのだが……わたしはどうも、我々が協力を要請する霊能力者が信用ならないんだ」
「それは、俺からは何とも言い難いですね」
深く考える前に、椋は思わずそう呟いていた。
自分の身に実際起こっている現象によって、世の中には科学では説明がつかない類のものが存在することを、椋は身に染みてわかっている。だが同時に、一般的な感覚として霊能力者を訝かしむ気持ちもわかる。
しかし、過去に誰よりも椋の幻覚を信じて犯人逮捕に尽力した真崎が、霊能力者を受け入れられないと言っていることには違和感を覚えた。
と、そんな椋の考えを察したように、真崎が言葉を続ける。
「ああ、一つ誤解はしないでもらいたいのだが、わたしも椋くんの力を目の当たりにしたことがある身だ。超能力が存在することはわかっているよ。そもそも、うちの署に異能係が作られることになったのも、わたしが係長に就くことになったのも、元を辿れば椋くんとのことがあったからなのだ。だが……」
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