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 早朝、大勢の通勤、通学客が駅の改札へ向かって足早に進んでいる。 毎週月曜日は相談者のお見合い相手を決める日だ。 「お見合い相手はどうやって決めますか」 吉川が聞く。 「相談者カードを男性、女性それぞれトランプのように切って、それぞれ私が一枚ずつ引く」 「ゲームみたいなことで大丈夫ですか。二人の相性を見たりしないんですか」 吉川が大きな目を見開いて驚く。 「カードを引いた後に考える。人は会わないとわからない。同じ趣味でも合わない事もある」 「でもアナログすぎませんか」 吉川は心配する。 「結婚するのは男と女だ。わからないことばかりだろ。AIが心の中や微妙な人情までわからない。『この人いいな』って気持ちだ」 吉川は、苦笑いするだけだ。 「結婚は運や縁が大事。コンピュータではまだまだ。ことぶき結婚相談所の存在意義はそこなんだ」 私の考えを話す。 「やってみよう」 カードの束を吉川に持たせて、男性、女性のカードを引く。 男性、女性のカードを交互に何度も見て吉川は頭をひねる。 「カードを見てみると女性の松平様はエレガントな女優さんみたいな人で、男性の羽柴様は地味で大人しそうな人ですよ。つりあわないような気がします」 私は、男性、女性のカードをじっくり見て考えた。 「でもいいかもしれないよ。この女性は確かにベッピンさんだ。で29歳か。ということは今まで何人かお付き合いをしているかもしれない。派手な感じの男性と。でも結婚していない。ならば真面目でコツコツ働く人がいいのかもしれない。そう考えると、あまり派手ではないこの男性が案外相性いいかもしれない。年齢も同じだし。よし、この二人でいこう」 私の判断を話した。  そもそも結婚相談所には結婚相手を探すために来ている。恋人探しではない。見た目ではなく、生涯の伴侶としてふさわしい人をご紹介する。二人が合うかどうかはわからない。でも結婚の意思はある。結婚相手を見つけるつもりでなければ高い登録料は払わない。  また時代とともに結婚観は変化している。極端な話だが戦国時代は政略結婚もあった。明治以降は子供の頃に父親同士が結婚相手を決めていた。結婚式当日に初めて相手に会うこともあった。でも離婚せずに死ぬまで添い遂げることが多かった。お見合いも一昔前はさかんだった。今は恋愛結婚が一般的になったが、お見合いという運や縁の考え方も見直されている。婚活パーティーも大人数のお見合いだ。ただ結婚は両家の大事な問題。だから専門家である結婚相談所に任せるというのも、一つの考えなのだ。 「お見合いの場所はどこにしますか」 と吉川が雑誌を見ながら考えている。 「高級ホテル『マリオホテル』のラウンジにしよう」 「あまり高級だと緊張してお見合いどころじゃなくなるかもしれませんよ」 吉川は心配する。 「出会いはとにかく第一印象が一番大事なんだ」 と力説する。 吉川もぶんぶんとうなずく。 「第一印象が良ければ、何があっても大抵は大丈夫だ。逆に、第一印象が悪いとずっと後をひく。ドラマで出会いは最悪だが最後は結ばれたとかあるが、ストーリーをおもしろくするためだ。だから、お見合いは最高の第一印象のため、できる限りのことをする。よって高級ホテルのラウンジだ」 お見合い当日。富士山まで見えそうな晴天。このマリオホテルは名古屋市内では一番の高層ビル。ラウンジは20階にある。遠くの山々まで見渡せる。 私と福田がラウンジ入口で待っていると小走りで真っ赤なドレスの吉川がやってきた。 「お見合いは第一印象が9割だ。だから今日ほぼ決まると言っていい。頼むよ」 「わかりました」 吉川は初めてのお見合いの付き添いに緊張気味だ。  まず、10分前に男性の羽柴様がご両親と登場。ご家族そろって真面目そうな雰囲気。そして5分後には女性の松平様とご家族がいらっしゃった。松平様ご一家はゴージャスなイメージが漂う。 両家が席につき、私の進行でお見合いが始まった。 「今日はいいお天気になりましたねー」 福田、吉川はクスクス笑う。 「所長、何か合コンの幹事みたいですよ」 「いつも、こんな感じ」  はじめは緊張した空気だったが、和やかにお見合いは進んだ。しばらくするとご本人二人で楽しく談笑されている。予想外に男性の羽柴様がよくおしゃべりしていいムードだ。このあと美術館へ二人で行くという。私の狙いどおりに順調に進みそうだ。
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