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喫茶ツルカメは、カウンターのほか四人がけのテーブルが4つ。マスターが選んだジャズが流れている。私の一番好きな場所。いつもはゆったり過ごす。
だが、今日は少し緊張していた。高砂幸子としぶりに会うのだ。高校を卒業してから一度も会っていない。ライバル会社の支店長として再会するとは思ってもいなかった。
約束の時間にスーツ姿の女性が現れた。高砂は私と目が合うと私のテーブルにやってきた。
「お久しぶり」
ニッコリと笑う。
「二十年以上会ってないね」
「そうね。岩井君もだいぶシワが目立つようになったね」
「幸子もキレイになったねと言おうとしたんだけどな」
と再会に笑いが出て話がはずんだ。
「驚いたな。幸子がライバル店の支店長で戻ってくるんだからな」
と笑いながら話しを始めた。
「本当にごめんなさい」
高砂が頭を下げる。
「いやいや、仕事だから」
私も驚いて高砂をなだめる。
「こんなつもりじゃなかったんだよ」
高砂が辛そうに話し出した。
高砂は大学を卒業しハッピーコンサルタントに就職。経験を積んで名古屋に戻るつもりだったが社長に気に入られ本社の勤務が長くなる。名古屋東支店の開店に伴い期待されての支店長就任らしい。高砂は仕事にやりがいを感じていたが、まさか私の結婚相談所のライバル店になろうとは思ってもいなかった。
高砂はしばらく考えていたが意を決したように訴えた。
「岩井君の家のことも聞いていたわ。だから今の会社の経験を生かして、
ことぶき結婚相談所で働きたかったの」
私も声が出なかった。
しばらくBGMのジャズだけが二人の間に流れた。
「ありがとう。でもせっかく幸子のキャリアを名古屋で生かすチャンスじゃないか。うちはきっと大丈夫だよ」
私も精一杯の返事だった。
ことぶき結婚相談所とハッピーコンサルタントを比較すれば規模の差は歴然だ。高砂の思いとは裏腹にことぶき結婚相談所の首を絞めるような格好になるかもしれない。二人とも言葉がなかった。
その時、高砂の携帯電話が鳴った。
「え、急ですね。わかりました」
何か慌てた様子だ。
「本社から連絡があって明日の朝、東京に来るように言われたの。また連絡します」
高砂は急いで店を出ていった。
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