一言に賭ける

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 青年は振り返る。  背後の窓の無い壁際には真鍮の宝箱。全開に蓋を開けた箱の中にはぎっしりと黄金のコインが詰まっている。  確かにこのコインを全て手にすればお釣りが出る程一生遊んで暮らせるだろう。  だが残念ながらあのコインの(鉤十字)を見る限りきっとナチス絡みの訳アリだ。秘密警察(ゲシュタポ)の目を掻い潜りアメリカ迄逃げ切る自信がない限り決して手を出すべきではない。 「Bet」  チップを賭ける野太い声が青年の目線をテーブルに引き戻した。宝箱から拝借された世界一贅沢なチップが天板の上で輝いている。 「そんな顔するなよ。勝てばいいんだよ、勝てば。アッハハ」  大男は青年の青い顔を楽しげに観察している。  青年は落胆した。きっとこの男には何を言っても無駄だ。デスゲームからは逃れられない。  そもそも興味本位で黒い森に足を踏み入れたのが不運の始まり。いや、この夕立さえ無ければ山小屋でこの男達と出会う事など無かった。  
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