一言に賭ける

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「フォーカード」  テーブルの上に弧を描く4枚の同じ数字が揃う強い役。したり顔の大男は椅子の背に深く背中を預けて腕を組む。 「さあ、お前の手を見せてもらおうか。豚野朗」  だが青年は突然奇妙な行動をとり始めた。ぶつぶつ何やら呪文の様なものを唱え始めテーブルの上で手札を混ぜ始めたのだ。 「おい!何やってる!早く見せろ!」  痺れを切らした大男の怒号の後、青年はようやく一枚ずつカードを捲り始めた。 「ほう、ハートの10か」  左端から順番にカードを翻す青年の震える指先。大男は極上の怖れを味わい愉悦の笑みを溢している。だが一枚ずつカードが表を向く度にその表情が徐々に曇り始めた。 「次はJ、Q、.....K。ま、まさか」  最後の一枚が表を向いた瞬間、大男の唾を飲み込む音が響いた。 「Aっ!?ロイヤルストレートフラッシュだと!?」  大男は目を剥いて開かれたカードを見た。確かに青年の5枚のトランプは最強の手を表している。 「ば、ばかな!そんな事が!」  大男は青年の襟元を掴む。 「負ける訳が無いんだ!幸運は全て俺の物だ!ありえない!」  大男が叫び声を上げるとテーブルの真上に揺れる裸電球が砕け散った。雷鳴が響く山小屋の中は仄暗い闇に包まれる。 「俺よりツイている奴がいるんて信じられるか!」 大男が地を揺るがす程の咆哮を上げると身体の内部から一気に黒い炎が立ち上った。 漆黒の炎に赤い血が混じる悍ましい存在【黒い森の魔物】。大男の暴かれた正体を窓から差し込む稲光が激しく照らし出す。  
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