「悪い存在」

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「カットーー」 静寂によく響く声で、張り詰めた空気が一気に落ちる。 「あぁぁぁーー」という エキストラの呟き。 バスタオルで頭をふかれるヒロイン。 細かな打ち合わせを確認する照明スタッフ。 こんな現場は、これまで何度も見てきた。 「・・・夏子(なつこ)ちゃんっ」 「あっ・・・はい」 「また焦点が合ってなかったよ。まだ折り返し地点なのに 今詰めすぎじゃない?」 「・・・ううん・・・大丈夫です・・・」 曖昧な返事を返す。はっきり見たわけではないが、マネージャーの森川さんが明らかに心配そうな目をしているのが手にとるように分かる。 「(そら)ちゃん!この間の番組見たよ!ダンスすごく可愛かった!」 「ありがとう。でも、ちょっとステップ間違えちゃったんだー、変じゃなかった?」 「えーー!全然気づかなかった!」 数メートル先に視線を移すと、彼女(ヒロイン)の周りには黄色い声が飛び交っていた。沢山の人に囲まれ笑っている彼女の姿は、そのまま映画フィルムの向こう側のように私の目に映る。 「・・・楽しそう」 誰にもバレないように、私は紙コップに口をつける。 すっかり生ぬるくなったシュガーレスの紅茶は、いつもより格段に苦かった。
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