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アスファルトは夏日に火照っていて、少し可哀想なくらいだった。
着よう 着よう・・・と思って、一年ぶりに引っ張り出したワンピースは、海色に白い刺繍が施された夏仕様。正直 自分のキャラと合わないのでは・・・と、今更ながら恥ずかしさを感じる。
家から少し歩くと、新しくできたアウトレットパークがある。夏休み真っ只中だからか、親子連れや中高校生ぐらいの集団が多い気がした。
「・・・初めて来たなぁ・・・」
今の仕事を始めてから、仕事以外で人前に出ることは避けてきた。この業界は、隙を見せれば色々なものが群がってくる。ちょっと前にも、事務所の先輩が深夜に男と密会?していたのを突かれて面倒なことになっていた。
でも、今の私には恐れがない。
「真莉愛」としか認識されていない私は、今、まさに別人なのだ。
強烈なインパクトの嫌われ者が手にする、唯一の特権だろうか・・・そんなことを考えながら進んでいくと、上から霧のような冷たさが落ちてくる。
「・・・雨?」
そう思って見上げると、イルカを型どったオブジェから、細かな水しぶきが上がっていた。それだけではない。砂浜をイメージした足元からも、ピュッと時間差で水が吹き上げられ、サンダルに心地よく染み込む。
うわぁ・・・すごい・・・
何に媚びへつらうわけでもなく、自然に感心していると、キャッキャッと弾ける声とともに、背中に何かがのしかかった。
「おうっ・・・!!」
圧に耐えきれず、膝から倒れ込む。ワンピースが水しぶきで濡れていくと同時に、小さな少女が後ろから倒れ込んできた。
「えっ・・・大丈夫っ!?」
とっさに少女に手を伸ばす。
「・・・・・・」
まだ小学生にも満たないであろう少女は、自分の身に何が起こったのか把握しきれないように、大きな目で私を見つめる。
ただ、自分のせいで私の洋服が濡れてしまったことは認識できたらしい。
「あぁっ もう何やってんのっ!!」
母親らしき女性が少女に駆け寄り、私に頭を下げた。
「すみませんっ うちの娘が」
「あぁ・・・大丈夫ですよ。」
何度も謝る母親に、私は手をブンブンと振る。
もう駄目だからねっ と、手を引っ張られていく少女は、何を思ったか何度も私を振り返り、小さく手を振って行った。
私はそこで初めて、自分が少女に手を振っていたことに気付かされた。
「・・・」
少女が居なくなったあと、私は自分の手を見つめた。何かを意識したわけではなく、本当に自然に。
「・・・最近、人に手振ることとか なかったからな。」
ふとそんなことを思っていると、ぐぅっ・・・という音と共に、自分の胃が空っぽであることを思い出した。
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