「オフ」

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アウトレットとは本当に色々な施設が立ち並んでいる。普段はロケ弁や簡単な手料理で済ませてしまう自分にとって、ファミレスに入ることは何となく違和感を覚えた。 店員から「お一人様ですか?」と聞かれ、周囲の視線を恥ずかしく思いながら はい と答える。 通されたのは、小さな窓に面した、明らかに一人用の席。 メニューを広げると、ここぞとばかり多種多様な料理がカラフルに軒並み連ねる。 自信満々でページを飾るハンバーグ・ステーキ、鏡のようなデミグラスソースに抱かれたオムライス、チーズとトマトソースの土台にベーコンと野菜が彩られたミックスピザ・・・・・・ 本当に色々あるんだな・・・久々の光景に感心してしまう。 『女優業ってさーーちょっと体重増えただけでクビって思っておかないと生き残れないよねーー』 かつて私のデビューを皮肉るように、遠い遠い親戚の女が笑っていたのを思い出す。 私は、思い切ってベルを押した。 「ステーキプレートのセットと、チョコレートパフェ  あと、ドリンクバーもお願いします。」 きっと私の・・・真莉愛のイメージは、難しい名前のオーガニック野菜を使ったパスタとか、アイスコーヒーとかだろう。現場で出てくる飲み物は、決まって無糖のコーヒーかお茶だ。 今の私はこう思われているのだ・・・と、現実を受け入れ始めてから、それがやがて自分自身に染み込んでいた。 だけど  今は真莉愛じゃない。 私は、夏子だ。夏子として、私は判断したのだ。 やがてガーリックの香ばしい香りとともに、漫画から飛び出したような肉厚のステーキが運ばれてきた。甘辛いソースがジュワッと広がり、構えていた紙ナフキンに飛び移る。 うわぁ・・・・・・すごい・・・思わず口に出しそうになってしまう。 これまでの私だったら、色々躊躇してしまったことだろう。でも、今の私に迷いは無い。 ナイフとフォークで切り分けると、食欲をそそる香りと焼き加減が嗅覚と視覚を刺激する。そのまま真っ白なライスの上に一切れを乗せ、いつもより大きく頬張った。 美味しい それ以上でもそれ以下でもない  その一言だ。 最後にステーキを食べたのはいつのことだろう・・・遠い遠い昔のことだなぁ、と思いを馳せながら、私の手は留まることを知らない。 芳醇な美味しさを一つ一つ味わい、胃へ納め・・・10分もしないうちに、鉄板も皿も空っぽになっていた。 デザートを待つ間、ドリンクバーで飲み物を選ぶ。お肉を食べた後なので、ここは控えめにしておこう  と、いつも飲んでいるようなストレートティーを入れた。奥のドリンクバーで、先程の水浴び場の少女が色々な種類のドリンクを混ぜて楽しんでいるのを横目で微笑ましく眺めつつ、速やかに戻る。 席に戻ってきたのを待っていたかのように、パフェが運ばれてきた。 目の高さまであるグラスには、ここぞとばかり宝石のような甘味が敷き詰められていた。クランベリー・ブラウニーショコラ・バニラアイス・・・一体何処から食べればよいのだろう。その迷っている瞬間も、楽しい。 甘いチョコソースに絡んだクランベリーを引き上げ、口に含む。果実本来の甘酸っぱさを、深く優しいカカオが包み込み、これぞ絶妙なバランスだ。やがてそこに、溶けだしたアイスや土台を支えていたフレークが混ざり合い、食感が賑やかになる。 その一口  また一口が、私の喉を潤し、スッと中に溶けていく。それはまるで、日頃 悪役として染まる体が、少しずつ癒やされていくような気分だった。 真莉愛だって  ステーキもパフェも食べたいんだろうなぁ・・・ 食欲を満たしながら、私は悪者の分身を少しばかり哀れんだ。
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