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「私は好きよ。」
「え?」
「あなたの笑ってる顔。」
今の自分は他人に何か言えるような状態なのだろうか・・・そう考えるより先に、言葉が出ていた。さっき少女を助けたときのように。
「笑ってる顔だけじゃない。アイドルとして踊っている時も、ドラマの中だけど、泣いたり怒ったりしている時も、もちろん今みたいに自然に話してくれる時の顔もね。」
「・・・」
由佳は黙っている。気に障ることを言ってしまっただろうか・・・もしそうだったら、もうそこまでだ。
「これは・・・あくまで自論なんだけど・・・。この業界って、絶対自分に対してNOっていう人も沢山いるって思ってる。でも、そんな中でも、YESって言ってくれる人がいて・・・そういった人達にとって、由佳ちゃんは素敵な『小日向 空』であり、『遥』なのかなって・・・」
そこまで言って、私は口を閉じた。由佳がわっと目を覆っている。
「由佳ちゃ・・・」
「・・・夏子さん・・・すみません・・・私・・・なんか安心しちゃって・・・・・・」
私は、彼女の背中を擦った。今まで色々な重圧に耐えてきたであろうその背中は、とても小さくて、熱かった。
「・・・私、一番大切なことを見失いそうになっていたかもしれません。」
涙を拭った由佳の顔は、いつにも増して晴れ晴れとしている。
「こんな自分のことを応援してくれる人がいる。まずは、その人達のために頑張りたいですっ」
「そのためには、私も真莉愛として頑張らないとね。」
「夏子さんは充分に頑張ってますよ!」
「え・・・そうかしら・・・」
「だって、真莉愛を演じられるのは夏子さんしかいませんもん!目つきとか、仕草とか、だれにも真似できないですよ!いつもすごいって思ってます!」
「・・・そう・・・かしら・・・」
褒められ慣れていないせいか、同じ言葉を繰り返してしまう。それでも、由佳・・・小日向空の天真爛漫な笑顔を見ていると、もしかしたら自分は意外と頑張れているのかもしれない・・・と、思ってしまった。
「今日はありがとうございました!また明日よろしくお願いします!」と、はつらつな挨拶をした彼女を見送り、私はまた一人になった。
本当は、彼女に向けた言葉全部、自分が言ってもらいたかった言葉なのかもしれない。NOの意見に何となく押しつぶされそうになっていた私だったが、こうして改めて考えてみると「悪役」のレッテルも悪くないと思う。氷が溶けたコーラを一気飲みし、私はアウトレットを後にした。
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