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【動機】
私は、迷える彼らの声を聞く。この広く狭くにぎにぎしくも静寂を臨む世界で、彼らが本当の意味で生きた証を第三者として証明するために……私は声を聞く――
幼い頃から誰かに聞こえない声が聞こえることに悩まされていた。しかしそれは心霊現象で言うところの、おどろおどろしい類とは異なる。
言うなれば、肉声のカセットテープが再生されたような感じだ。つまり、誰かはあくまで私に語り掛けているわけではない。ただ、私が誰かの声を聞いてしまう……それは隣人の会話が壁に空いた小さな穴から聞こえてしまう、そんな構図とよく似ているかもしれない。
初めて聞こえたのは小学校時代だ。
下校時にふと耳に入った声に、私は立ち止まり周囲を見渡した。しかしデコボコのコンクリート一本道の脇には、田んぼとあぜ道が広がりプレハブ小屋が数個並ぶだけ。
急に立ち止まった私を不思議に思い振り返ってきた友人二人以外に人影は無く……また友人たちの声とは明らかに異なるものだった。
はじめは悪ふざけで誰かが発したものだろうと思ったが、友人は二人とも不思議な顔をして、何言ってるの? と返してくるだけだった。
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