漣とセンテンス

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 群青。  光を受けて煌いて、まるで呼吸をするように揺れて、私の足元を攫おうとする、鮮烈な青。美しい色。私が求めた色。  少し遅れて、その青が……波が、ざぁっと押し寄せる音がした。さらさらとした漣、ざらついた音。  足に確かな冷たさを感じて、私はゆっくりと目を開けた。  海だ。  それを認識した途端、視界がぱっと拓けた。  果てしなく続く海の青、遠い水平線の上には、晴れ渡った空の澄んだ青。……あの空の青は夏の色だ。紺碧の天から地へ零れ落ちて、淡くエメラルド。  足下は湿った砂浜で、絶え間なく押し寄せる穏やかな波が、無防備な素足を濡らしていた。  目が眩むほど眩しい太陽が照らしているというのに、暑さは全く感じなかった。海特有のべたついた潮風はなく、さらさらと乾いた微風が頬を撫でた。磯臭さもない。理想化されたような浜辺に私は立っている。  誰かに意図的に作られたような印象を受けるほど綺麗な場所だった。排気ガスに汚染された都会では、こんなに空は青くないし、私が今までに見た海は、こんなに穏やかで美しい群青ではなかった。
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