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「穂香、あの夜、おまえの気持ちに答えてやれなくてごめん。俺は穂香に幸せになってほしかった。失ってしまった家庭を、誰かと作ってほしかったんだ。おまえのことが大切で、大切で、どうしていいのかわからなくて、穂香のことを深く傷つけたと思う。ごめんな」
「兄さん……」
それは兄が最後に私に話してくれた、正直な気持ちだった。
「でもきっとこれで良かったんだと思う。俺も美鈴と共に、この選択はまちがってなかったと思える人生にしていくつもりだ」
兄さんにとっても、この結婚式は、妹の私との決別と旅立ちなのだろう。
「兄さん、幸せになって。兄さんが幸せじゃないと、私も前に進めないから」
「ああ。穂香、おまえも幸せになるんだぞ。良い人をみつけたら、必ず報告しろよ」
陽が差し込む控え室で、兄は輝くような笑顔を見せた。美しい姿だった。
「早く美鈴さんのところへ行って。私も仕事に戻るから」
兄は力強く頷き、美鈴さんがいる部屋へと駆けていった。
走る兄さんの背中を見送りながら、私は静かにつぶやく。
「さよなら、兄さん。幸せになってね」
私はこの日を忘れない。兄の結婚を見守ったこの日を。
これからも仕事として、多くの新婚さんを見守るだろう。そして私もいつか誰かと……。
「今は仕事のことで頭がいっぱいだけどね。さぁて、頑張りますか!」
プランナーとしての仕事に戻るべく、私も小走りで駆け出した。
了
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