兄の結婚

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兄の結婚

 今日、兄は結婚する。  私の大切な兄が、美鈴さんと夫婦となり、家族として生きていくのだ。 「兄さん、美鈴さんの準備できたよ」  花婿の控え室の扉を開けると、白いタキシードを着た兄さんが振り返った。  長身の兄さんに、白く輝くタキシードはよく似合っていた。 「美鈴さんのところへ行ってあげて。私は仕事だから」 「わかった。でもその前に少しだけいいか?」  優しい微笑みを浮かべた兄は、意外そうにつぶやいた。 「驚いたよ。穂香が専門学校に進学したのは知ってたけど、まさかウェディングプランナーの仕事を目指していたとはね」 「びっくりした? 驚かせたくて、今まで黙ってたんだ」 「ああ、驚いたよ」  今日は兄の結婚式。  そしてウェディングプランナーとしての、私の初仕事となる。  プランナーの仕事も本来は修行が必要だし、身内だからと簡単に受けもてるものでもない。しかし兄と美鈴さんの結婚式をどうしてもあきらめたくなかった私は、職場に頼み込み、兄ともよく相談して、今日の結婚式を迎えたのだ。 「私ね、兄さんに恩返しできることをずっと探してたの。兄さんと美鈴さんに幸せな家庭を築いてほしいから。最初はその程度の気持ちだったけど、プランナーの仕事って奥が深いの。少しでも希望があるなら、お式をあきらめてほしくない。そのお手伝いをしていきたいの」  兄さんがまぶしそうに私を見つめている。 「立派になったな。穂香」 「まだまだ半人前だよ。今日は初仕事だから、兄さん以上に緊張してるよ」 「がんばれ、穂香」 「うん!」  私がプランを立てて、兄さんと美鈴さんに結婚式を挙げてもらう。  それが私にできる、兄さんへの最初で最後の恩返しだと思う。そして兄との、本当の意味での決別となる。 「穂香、最後にひとつだけ言わせてくれ」  兄さんの顔から微笑みが消えた。  
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