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車の追突事故にまき込まれ、お父さんとお母さんは天国へ旅立ってしまった。母にしっかりと抱きしめられていた私だけ助かったのだという。
兄から事故の詳細を聞かされたのは、兄の涙を見た数日後のことだった。
「うそだよね? そうでしょ、兄さん!!」
「穂香……」
アイドルグッズがほしいとわがままを言わなければ、事故にあうこともなかったのに。私のわがままが、お父さんとお母さんを死なせてしまった。
現実を受け止めきれない私は、兄の胸を叩きながら、ひたすら泣き続けた。
兄は高校を中退し、叔父の紹介で、地元の会社に就職を決めた。
叔父夫妻は私と兄を引き取るつもりだったが、兄が断ったという。その理由は私だった。両親を亡くしたショックで情緒不安定となり、度々パニック状態となっていたからだ。学校にも通えなくなり、家に閉じこもる日々。夜になると暗闇が怖くて、また泣く。
「穂香、大丈夫だ。兄ちゃんがいる。何があっても穂香を守るから」
泣き叫んだり、震えが止まらなくなる私を、兄はずっと抱きしめてくれた。
兄に抱かれ、手を握ってもらいながら眠りにつく。兄はろくに眠れなかったことだろう。それでも翌朝には笑顔で私を起こしてくれた。
いつしか兄は、私にとってかけがえのない存在となっていった。
中学生となった頃には学校にも通えるようになっていた。夜のパニック状態も少しずつ減り、料理が苦手な兄に代わって家事をするようになれた。
「兄さんが作ってくれた目玉焼き、焦げてたでしょ? あれ、苦手だったんだよねぇ」
「よく言うよ。残さず食べてたくせに」
「だって兄さんが作ってくれたものだもん。全部食べるよ」
「穂香……」
兄がいれば、大好きな兄さんがいれば、私は生きていける。兄との二人きりの生活は、私の病んだ心を優しく癒してくれた。
仕事に行く兄さんのために早起きをして、お弁当を作る。帰ってきたら、料理書を見ながら晩御飯を作る。兄が帰宅したら、一緒にごはんを食べる。
あたりまえの生活が、何より幸せだった。
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