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決別
翌朝、すっかり熱が下がった私は、できるだけ自然な笑顔で兄さんの前に立った。
「昨日はごめんね! 私、熱で何か変なこと言ったみたいだけど、何にも覚えてないの。本当にごめんね」
兄さんの顔が少しだけ、ほっとした表情を見せているのを、私は見逃さなかった。
「昨夜は熱でうなされて大変だったな。もう無理はするな」
「うん、ありがとう。あのね、兄さん。バイト代も貯まったし、私、ひとりで暮らしてみようって思うんだ。ほら、美鈴さんのこともあるしさ」
「穂香……」
「私もそろそろ自立しないとね。兄さんに甘えっぱなしだったし」
「そうか……」
一瞬だけ寂しそうな表情を見せたけれど、兄さんは反対しなかった。
翌月、私は近くのアパートに移り住んだ。
「大好きな兄さんに、もう二度と自分の気持ちを告げない」
兄さんを苦しめないように、私が兄から離れる。 私に兄さんにしてあげられることは、ただそれだけだった。
アルバイトを続けながら、私は専門学校へ進学を決めた。
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