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数年後
数年後、兄は長年待たせ続けた美鈴さんと、ようやく結婚を決めた。
「穂香が社会人になるまで、見届けるまで待ってほしいんだ」
美鈴さんは嫌な顔ひとつ見せず、黙って受け入れたそうだ。穏やかそうな人なのに、芯は強い人らしい。たぶん私は、美鈴さんに一生勝てないって思う。
しかし二人の結婚式は、思わぬ形で延期となってしまった。
世界中で大流行している感染症のため、兄の結婚式は二度も延期となってしまったのだ。結婚式が延期になったのは、兄たちだけではない。未来を誓い合った多くのカップルが、どうにもならない事情に頭を悩ませている。
「結婚式はあきらめましょう。籍だけ入れられたらそれで十分よ」
結婚式そのものを止めることを提案したのは、美鈴さんだった。
美鈴さんから事情を聞かされた私は、決意を込めて兄に会いに行った。
久しぶりに会う兄さんは、以前より少し痩せていた。仕事の対応も大変だったらしく、食欲も失せてしまった。心配した美鈴さんが同居を始め、ようやく体調も落ち着いたよ、と兄さんは話してくれた。やつれた兄さんのそばに走り寄りたい衝動を抑え込みながら、持ってきた書類の束を兄に見せた。
「美鈴さんとの結婚式、あきらめないでほしいの」
兄さんから離れることしかできなかった私がようやく見つけた、兄さんへの恩返しと愛情の証だった
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