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「なぜでございます?」  すると奴は右肩に首を傾けてこう言った。この淤美豆座衛門もどきは、はっきりと「ございます」と濁音と清音を区別して発音したのである。  私はいよいよこれが淤美豆座衛門ではないと確信した。もし本物の淤美豆座衛門ならば「ございます」などという爽快で正確な発音などはしない。 「ごあいます」あるいは「ごさいまふ」などと、意味の分かる範囲で音に外しを与える。これが淤美豆座衛門の口癖だった。この濁音や半濁音、清音の変化には規則性はなく、淤美豆座衛門曰く、その時の語感の良さで決めているという。
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