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恋愛運は限りなくゼロに近いが、結婚運は限りなく百に近い。
「いやね、あまりにかけ離れた運を持つあなたが不憫で、ついついこうやって声をかけてしまったわけなんですよ」
私も人がいいですよね、とさびれた商店街の一角で占い師の男が笑う。その様子を、ケイヤは頬を引くつかせながら見ていた。さっきまでのほろ酔い気分はどこへやら。すっかり覚めてしまった頭でもう一度、さっきの言葉を思い出す。
(俺の恋愛運が、結婚運がなんだって?)
「では、私はこれで」
「ちょ、ちょっと待て!」
くるりと背を向けた占い師に、ケイヤが腕を伸ばす。はい? と振り返るその顔はなんだかとてもめんどくさそうであった。
「さっきの言葉はどういう意味だ」
「どういう意味もなにも、そのままの意味ですよ」
「だからそれはどういう」
言いかけたケイヤの顔の前に、さっと占い師が腕を出す。人差し指を立て注目を集めると、それをゆっくり後ろに向けた。
「申し訳ありませんが、これ以上は料金が発生します」
指の先には丸椅子と、『占』のクロスがかけてある小さな机があった。
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