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 三千円という高いのか安いのかよくわからないお金を払い、ケイヤは椅子に座る。  背もたれもなく、絶妙に低い椅子は座り心地がよくない。通勤カバンを置くカゴもなく、仕方なく抱えているのだが椅子の低さも相まってとにかく落ち着かないのだ。  しかもケイヤは通行人に背を向けている方向に座っているため、道行く人の顔が見えない。通る人通る人全員が指さして笑っているような気になって、余計に身が縮こまる。 「それで、なにを聞きたいんでしたっけ?」 「なにってだからさっきの続きだよ」  お金をしっかりダイヤル付きの金庫にしまってから占い師は言った。 「続きと言われましても、さきほどの占いについて、私の言うべきことはもうあれで終わっているんですよ。恋愛運はゼロで、結婚運はMAX。ちぐはぐでなんとも言えず、不憫な運をお持ちだ」 「はあ?」  うっかり大声を出してしまう。じゃあ、なんで俺は金を払ったんだ!  腰を上げかけたケイヤを、占い師が「まあまあ」となだめる。 「ですから、それ以外のことを助言しましょう。例えば、その運の使い方とか」 「使い方って」 「ひとつは簡単です。今やっているエンジニアの仕事をやめて、結婚相談所を開く」 「やだ」  ケイヤは即答した。どこの世界に占い師に言われて始める結婚相談所があるのだ。 「天職なんですがねえ」 「運だけで転職する奴がどこにいるよ。……ん? そういえば、俺、あんたに職業を言ったっけ?」 「占いでわかります。ついでに名前もわかりますよ、ケイヤさん」  にっこりと笑う占い師に、ケイヤの背中に寒気が走った。思わず姿勢を正す。 「本格的に始めるのではなくアドバイスとして話を聞くだけでも、あなたの強運ならば十分成り立つことでしょう。ああ、ただぼんやりといてもダメですよ。ちゃんとそういう仕事について、能力を発揮できる環境があって初めて正常に作用するものです。なので、電車に乗ったら車内のカップルが一斉にプロポーズしだす、なんてことはありません」  だからその使い方を教えるのだという。 「ちなみに、その使い方を学ばなかったら?」 「外に行くことはないので、自分で消費するだけになりますね」 「消費ってことは、俺、結婚できるの?」  期待をこめてきく、自然と頬が吊り上がっていた。だが、そう甘くはないようだった。 「相手がいればですが」  いないのはわかっていますよと言わんばかりの笑顔を向けてくる。言い返したくもなるが、言葉が見つからない。 「相手さえ見つかれば幸せな結婚生活は約束されたようなものですが、いかんせん恋愛運が皆無ですからね。出会いすらないでしょう」 「そんなあ」  それじゃあ、宝の持ち腐れじゃないか。がっくりとケイヤが肩を落とす。 「ですから結婚相談所で他人のために尽くすのが最善だと思いますがねえ。感謝されますよ」 「それはそれでいうれしいけどさ、肝心の俺自身の幸せはどうなのさ!」 「うーむ……ですが」  占い師がぶつぶつと言って、それからまたケイヤに向き直る。その顔は憐憫に満ちていた。 「このまま他人に結婚運を活用せず、ただただ自分でのみ消費していくと今度はその反動でまったく逆になりますね。つまり恋愛運が最高潮を迎え、その代わり結婚運が地の底に落ちます」 「それってつまり……」 「人生で一番のモテキ到来ですが、すぐに終わって長続きしません」 「最悪じゃないか!」  人目を気にせず頭をかかえる。あまりに両極端な結果にどうすることもできない。
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