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「しかし、ふーむ、なるほど。他人に使うと長続きし、自分のために使うと消費する上に真逆の運勢になるとは、あなたは本当に面白い運をお持ちですねえ」
「面白くても意味ないじゃないか」
「いや、これならひとつ方法がありますよ」
「え?」
「今は結婚運だけがあり、のちに恋愛運が最高になる。つまり今の結婚運を貯めておいて、恋愛運が最高のときにその運を使えばいいんですよ」
「そんなこと……」
「できます。これを使えば」
ゴンと堅い音がして、机の上になにかが置かれた。
「……これは?」
「これは運を貯めておく壺です」
壺と聞き、ケイヤの額に皺がよる。壺というよりかは甕、もしくは花瓶に見えるそれは人の顔ほどの大きさだろうか。余計な装飾はなく、陶磁器のようにつるんとしている。
「この中に結婚運を入れて、のちにそれを使う。そうすれば最高の恋愛と結婚生活はあなたのものに」
「おー!」
勢いに押されて壺に手を伸ばす……とその途端、占い師にその手をはたかれてしまった。
「こちらの壺、五万円になります」
「ごま……!」
占いついでにもらえるのかと思ってしまっただけに、金額が重くのしかかる。
「ちょっと高すぎないか?」
「でしたら、この話はここまでで」
ひょいと片付けだした占い師に、ケイヤは慌てて待ったをかけた。
「まだ買わないとは言ってないだろうよ、感想を述べただけで」
「おや、そうでしたか」
占い師はわざとらしく言うと、机の上にそれを戻した。それを見てケイヤはほっと胸をなでおろす、
だが。
(これに本当にそれだけの価値があるもんなんだろうか)
「しかし、五万かあ」
もし仮にこれが本当だとしても、すぐに効果がでるわけではなさそうだ。これが詐欺だとしたら逃げるに十分な時間ができてしまう。
「試すということもできないんだろうか」
「疑り深いですねえ」
占い師はやれやれと溜息をはく。
「でしたら、こういうのはどうでしょう」
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