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(まあ、結局、三日ほど無駄にしたけど)  逆にそれだけの時間で見つけることができたのだと感謝すべきだろうか。ポケットに入れた小瓶に触れながらそう思う。  あの小瓶の運は常に新鮮なものを、と占い師から言われていたため、今日の朝、新しく濃縮されたものに入れ替えてある。古いものは捨ててくれと言われていたのだが、なんとなく勿体無い気がしてバケツにこっそり貯めていた。粘度といい無臭といい、本当に水のようだった。  実験体……もといケイヤの結婚運を授かる幸運者の名前はカイヤマと言った。  ケイヤとは四つ年下で部署も異なるが、同じフロアということもあり顔を合わせる機会が多く、なにより同じ大学の出ということもあり、新入社員のときからなにかと目をかけているやつだ。 「悪かったな、休憩時間に」 「いえ」  三時の休憩時間に自販スペースに連れていく。以前そこで愚痴をきいてやったことがあったので、大して警戒なくついてきた。 「こっちの都合で呼び出したんだし、おごるよ。コーヒーでいいか?」 「あ、ありがとうございます」  こちらも自然の流れで飲み物をゲットする。あとは小瓶の中を注いで終わりだ。紙コップ式なので、入れるのはたやすい。 「あの、それで話ってなんですか?」 「ん? あ、いや、大した話じゃないんだ。ちょいと俺の相談に乗ってほしくてね」 「先輩の?」 「言っとくが、金がらみじゃないから。保証人になってくれとか、金をかしてくれとかそんなことじゃない」  振り向きながら軽く言う。それだけで少し表情が明るくなった。まあそれも呼び出される可能性のひとつだったということだ。それがわかっただけでもいくらか楽になったのだろう。  そしてカイヤマが笑ったその隙に、ケイヤはコーヒーの中に液体を注ぎ入れた。 「ほら。ホットにしたけど、アイスのほうがよかったか?」 「いえ、ありがとうございます」  なにも知らずに一口飲んだのをみて、ケイヤは自販機に向き直り、よし! 小さくガッツポーズをした。 「相談というのは、実は最近、俺にも彼女ができてね」 「え? あ、はあ」 「別にのろけを聞かせようってわけじゃない。俺もこの歳だ。そろそろ結婚も考えないといけないからさ」  ケイヤが考えた話の流れはこうだった。結婚を考えている彼女ができたが、そういう情報に疎く、周りに既婚者もいないためよくわからない。肝心なところは二人で決めることは当然なのだが、彼女の前ではかっこつけたいため、できればそういう情報は一通り手に入れておきたい。 「そんで、先に結婚を考えているキミに、いろいろご教授願いたくてね」 「そんな、人に教えるようなことは」  もちろんケイヤに彼女なんていないし、そんな情報はネットを駆使すればいくらでも手に入る。だが、先輩に頼られたのが嬉しいのだろう。それに気が付かないまま、カイヤマは親身にいろいろ説明してくれた。 (なんか……罪悪感がないわけでもないな)  しかし話を聞くうちに本気で結婚を考えていることがわかったのは行幸だ。もしこれで「実は別れたいと思っていて」なんて言われた日には目も当てられない。  一通り教えもらったことには、休憩時間はもう残りわずかになっていた。「ありがと。助かった」 「いえ、お役に立てたのでしたら」  そういって、カイヤマは一気にコーヒーをあおる。これもケイヤの計画だった。三時の休憩時間は短いため、話に夢中になると最後はこうして一気に飲まなくてはいけない。そのため多少味が変でもごまかせるし、熱ければ舌も麻痺してさらにわからなくなるだろうという狙いだった。 「じゃあ、また」 「おう」  笑顔でフロアに戻る彼をみて、最後にちくりと良心がいたんだが、空になった小瓶に触れたとたん、そんな気持ちは吹き飛んでいた。
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