4.寝ても醒めても

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 昔一度だけ人間の女性と深い仲になったことがあるが、その頃は姿を常にコントロール出来ていた気がする。だがもしかして、寝ている間だけはちょいちょい姿が戻っていたのか。  この世から彼女が消えた今となっては、それも確認しようがない。もしかしたら彼女のように、要も自分を理解してくれる数少ない人間になり得たのかもしれないが、出会って翌日にはもう隠し事をしてしまった。  さぞかし彼女の目には自分の存在が不審に映り、警戒していることだろう。その証拠に、彼女は朝食を食べて早々に部屋を出て行ってしまった。 (もう会うこともないかもしれないな……)  店に来るよう誘ってはみたが、「気が向いたらね」としか言われなかった。金曜の夜にCoffinへ行けばまた会えるのだろうが、彼女が望んでいないのに自ら追いかけるような真似は出来ない。  何故なら、人と人狼は結ばれることはない。そういう運命なのだから。  目の前に二つ並んだターンテーブルの片方へ、新しいレコードをセットする。それは今の気分にマッチする、スローなR&Bナンバーだった。針を落とそうとした瞬間、店の扉が開いた気配がしてそちらを振り返ると、そこには今朝とは違うカジュアルな格好をした要の姿があった。 *  クラブを訪れるのは初めてではないが、あまり頻繁に訪れない種類の店内に緊張しながら、受付カウンターで入店のドリンクを注文しようとする。すると店内のBGMが急にノリのいいナンバーに変わり、中にいた客たちが盛り上がり出した。  その様子に戸惑いながらも、キューバリバーを注文してお代を渡そうとすると、その手を何者かに捕まれる。 「おごるよ」 「シルバさん!?」 「シルバでいいって。来てくれてありがとな」  少し俯いていて表情はわからないが、シルバは鼻下を人差し指でこすっている。 「お皿回してるって言ってたから、どんなかなと思って……」 「じゃあこっちに来て」  そう言って彼は私の手を再び掴み、ターンテーブルの方へと導いた。
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