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従兄弟の繁ちゃんと、親に言えない関係になったのはいつからだったか。
学年は繁ちゃんがいっこ上だけど、僕らは一年違いで生まれて保育園から高校までずっと同じところに通っていた。といってもここは小さな島だ。高校はひとつしかない。
繁ちゃんが東京の有名な大学に受かったと聞いた時は、僕だってうれしかった。島から東京の大学に行く子はまれだし、それがとくに仲のいい従兄弟だなんて、鼻が高いし誇らしかった。
受験が終わってから、繁ちゃんは放課後ずっと僕の部屋に入り浸っている。僕も部活はやっていなかったから、うちの親が帰ってくるまではベッドでふたりきりだった。
「ユキのにおい」
僕の首筋を嗅いでいた繁ちゃんがそこに顔を埋めはじめる。鼻息と吐息と、唇と前髪のチクチクが同時に来る。
「……あっ、もう……」
身もだえる僕の肌を、従兄弟の熱い手のひらが這っていた。
「したい」
「えー、また?」
「ユキの体も、熱くなってる」
乳首をこねられて声が出る。
「こんなことばっかりしてたら、ヘンになっちゃうよ」
「俺はとっくにヘンだよ。ユキとこういうことするんだから」
彼は太い眉をぎゅっと寄せ、深刻そうな顔をしてみせた。僕はちらちら見ていたスマホをシーツの上に置く。
すぐにキスが来た。
ねちっこく唇と口内をむさぼって、その先はどうなるか僕も知っている。
けれど、激しいキスのあと息継ぎした繁ちゃんは、いつもと違うことを言った。
「大学行くの、やめようかな」
「は?」
「ユキと離れられる気がしない」
そんなことを言われたら僕も動揺する。
「意味わかんない。おじさんおばさんも、うちの親もみんな、繁ちゃんが受かったの喜んでるのに」
「ユキを置いていけない」
「だったら連れてってよバカ」
僕だって、誰にも言えない関係にモヤモヤしていた。
それに……。
「繁ちゃん、東京行ったらどうせ彼女できるでしょ」
そうなったら従兄弟の僕とのことなんて、きっと汚らしいことのように思うに違いない。
「ユキ、なんで泣く」
またキスが来た。
「おまえ以上に愛おしい生き物が、この世に存在するはずない」
「何それ。バカみたい」
「俺はバカでヘンなんだ」
島一番の秀才が言った。
「繁ちゃん、繁ちゃん……」
僕だって好きなんだ。ちょっとザラザラした頬をつかんでキスを返す。
「絶対東京の大学行ってよ。僕の成績じゃ同じとこ行けるかどうかわかんないけど、きっと追いかけていくから」
男同士の一時の熱情を理由に、人生を決めていいのかどうか。でも人生なんてきっと退屈で、どう転んだってたいしたことはないはずだ。
「ねえ、やっぱりしてよ」
わざと甘えた声で言って脚を絡めた。
密着している彼の体が、素直に反応するのがわかる。
親が帰ってくるまであと一時間、気持ちいいことに溺れよう。だって、これは愛だ。
僕らはきっと、愛に溺れている。
<了>
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