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アイドルの秘密
───扉を開けた途端、男同士の濃厚なキスを見てしまった。
それも結構売れっ子のアイドルグループ『star space 』通称スタスペのメンバー、ソウとリョウ。
「おい!リョウ!やめろって」
ソウが必死に抵抗している。
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
リョウはまだソウのことをしつこく抱きしめている。
「あ…」
その時、新田光輝(ニッタコウキ)は、ソウと目があってしまい、顔を背けた。
「あー、気にしないで。コイツ、男女構わずキス魔なの」
「あ、はあ…」
光輝が少し戸惑っていると、リョウは、光輝を見てニコリと笑った。
「内緒にしといてね?えっと…誰?新しく入ったアイドルの子?」
『boys space』は、男性アイドル専門の芸能プロダクションで、『sasuke』や『never stop』など多くの売れっ子が所属している。
ある程度売れてくると、それぞれが独り暮らしを始めるのだが、最初のうちは私生活の乱れを防ぐためもあって、寮で共同生活をすることになっていた。
『新田ハウスサービス』は、光輝の母親が経営する会社で『boys space』は、長年の得意先である。
男性アイドルの身の回りの世話をするので、女性より男性がいいだろう、と前任者が辞めたのをきっかけに、息子である光輝が派遣されることになった。
「あ、新田ハウスサービスから派遣されて来ました。新田と申します。今日からお世話になります」
光輝は、ぺこりと頭を下げた。
「へえ…男性の家政婦さんなんて珍しいね」
リョウは、光輝に、じり…と近づいてきた。
「可愛い顔してる」
リョウに頬を撫でられて、ビクっとしてしまう。
光輝は、元々ゲイであるために、本当は、ここの仕事もどうかと思ったのだが、母親はそれを知らない為に、勝手に決められてしまった。
「こら、リョウ!止めろって!前の人もお前のせいで…」
ソウが止めに入った。
「え?そうなんですか?」
光輝は、顔を上げてソウを見た。
「いや、ていうか…?向こうがリョウのことを好きに…」
「ああ。そういうことですか…」
前任者はたしか割と年配の女性だったはず。
そう言うこともあり得るだろう。
「そうなんだよねー!あのオバサンさぁ」
「止めろって!」
ソウは常識人のようで、リョウのことを持て余しているようだった。
「うっせーなー、何騒いでんだよ」
上半身裸で、寝癖の金髪をくしゃくしゃと乱しながらもう一人のメンバー、キョウがドアを開けてリビングに入って来た。
スタスペは、茶髪で女性的な顔立ちのカワイイ担当、月谷壮平(ツキタニソウヘイ)ソウ。
黒髪でセンター分けセクシー担当、長瀬亮二(ナガセリョウジ)リョウ。
金髪でツンデレ、クール担当、青山恭平(アオヤマキョウヘイ)キョウの三人で構成されていて、ここのところ人気急上昇のグループだった。
間近で見るアイドルの神々しさに光輝は、圧倒される。
…スゲー!やっぱりかっこいい!
三人揃うと本当に後光が差しているようだった。
「あ、あの、キョウさん。新田ハウスサービスから派遣されて…」
「あー、新しい家政婦さんね。了解」
そう言いながら、リビングのソファにどかっと腰掛けた。
「腹減ったぁ、なんか食わせて、えーと…」
「あ、新田です」
「新田何くん?」
「あ、光輝ですが」
「コーキ!お茶漬けちょーだい!」
キョウは、そう言ってふぁぁぁ…と欠伸をした。
「あ、はい」
キョウの命令の破壊力に感動しながら、光輝はキッチンに立った。
「お茶漬けいーね、俺も」
ソウがキッチンに来て食器を出す手伝いをしてくれる。
「あ、すいません。ありがとうございます」
光輝がぺこぺこ頭を下げると、いえいえ、と言いながら冷蔵庫から漬物の入った容器を取り出している。
…可愛い人だな…
光輝は、ドキドキしながら、ソウの横顔を見た。
久しぶりにときめいていた。
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