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「あ~、うん、あのね、この間別れたばっかり・・」
「えっあっそうか・・」
紗英ママが気まずそうな顔をすると、由香ママがそれにすぐ続いた。
「そう、別れちゃったんだ。まぁ美愛なら直ぐに良いパートナーが見つかるから大丈夫よ」
にっこり笑って、そうなるのが当たり前だというような言い方をした。
「・・そうかな・・私そんなに可愛くないし・・良い子でもない・・」
ダメだ、せっかく由香ママがフォローしてくれてるのに素直にありがとうと言えない。自分を卑下する嫌な部分が咄嗟に出てしまう。
「んなことないって、美愛可愛いじゃん、ねえ由香ちゃん」
「そうよ、美愛はちゃんと可愛いし、もし自分でそう思えなくても、ちゃんと愛してくれる人がいればいくらでも奇麗になるわよ、その子は美愛にとって運命の人じゃなかったって言うだけのこと。気にしなくてもいいわ」
明るくて直球だけど、語彙の少ない紗英ママを由香ママは完璧にフォローして、私を勇気づけてくれた。
こんな時、この二人の相性は抜群なんだなと心底思う。
「うんそうかもね。分かったもう気にしない」
「そうそう、ママは美愛に合う人はちゃんと居るって思ってるからね」
「私に合う人か・・」
私はテーブルの下で包帯の巻かれた左手を摩った。
(漫画みたいな話だけど、運命の人に出会えればこんな事しなくても済むのかな)
ザラリとした独特の感触と共にチクリとした痛みが蘇る。
「大丈夫?手が痛いの?」
思わず眉をしかめてしまったのだろう、紗枝ママがすかさず聞いてきた。
「うん、大丈夫。怪我したばっかりだから少しね」
痛み止めが切れてきたのか、少し痛みが強くなってきた気がする。私の様子を見た由香ママが横に座っている紗英ママに声をかける。
「紗英ちゃん、怪我が痛むみたいだからちょっと吊ってあげて」
「うんそうだね、そうしよっか」
紗英ママはパタパタと小走りで奥の部屋から三角巾を持ってきた。
「はい、ちょっと肘曲げて」
そう言いながら慣れた手つきで、私の左手を三角巾で包み吊っていく。
「ハイ終わり」
「ちょっと大げさじゃないかな?恥ずかしいよ」
「いいのよ。怪我したばかりの時は患部に負担をかけなければ治りも早いし、大げさにしてれば周りの人も避けてくれるでしょ」
確かに三角巾で吊るされた左手からは負荷が激減し、肘の角度、首の後ろの掛かり具合がぴったりハマった状態は心地よかった。
それにしても紗英ママの処置は妙に上手いし、由香ママもこの手のことにとても詳しい、あっけらかんとしていても障害を抱える程の大怪我のせいで二人とも長年苦労したんだろうと思う。
「あっそうだ、プレゼント渡さなきゃ」
「えーお金ないのに無理しなくてもいいのに」
「大丈夫、なんとかお金は稼げてるから」
「そう?ありがとうね。じゃあ遠慮なく」
毎年行われるお約束のやり取りを行うと、私と由香ママは吹き出してしまった。
渡した袋の中にはクッションと厚手の靴下。
クッションは車椅子生活には欠かせないし、厚手の靴下も麻痺して感覚のない両足を守るためには必要なものだ。
感覚がないと何かにぶつかって怪我してしまっても本人は気付かない、それを防ぐのに厚手の靴下を履いて貰っている。
今年は和柄がマイブームなので和風デザインのものを渡した。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「あれ?何だろう」
紗英ママが応答すると届け物のようだった。
「届け物だって、何か頼んだっけ?」
「あっいいよ、私行ってくる」
たまたま廊下の近くにいた由香ママが車椅子を滑らせ玄関に向かう。
「うわっ何これっ」
直ぐに由香ママの驚いた声が響いてきたけど、声の様子から喜意が感じられた。
「何々?どうしたの由香ちゃん」
「ねえ、紗枝ちゃん、優愛。見て見て」
戻ってきた由香ママの膝の上には薔薇の花束が乗っていた。
「え~薔薇じゃん、美愛これも買ってきてくれたの?」
「えっ?ううん、私じゃないよ」
「じゃあ誰だろ?」
「ここに差出人が書いてあるわよ」
由香ママが花束に刺してあったカードを私に手渡してきた。
「?・・あっ」
そこにはHAPPY BIRTHDAYの文字と”上条あきら”という名前。
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